私はとっさに嘘をついた。

カエルのことを話しても信じてもらえるわけがない。

幼い頃から何人もにもののけの存在を打ち明けたが、気持ち悪がられるだけだったし、嘘つき呼ばわりされたことすらあるので、理解してもらうのはもうあきらめている。


「走る前に、僕に相談してください」

「なにを?」

「いや、相談事があればと思って。僕は聞いてもらってばかりですから」


珍しく彼からの男らしい提案なのだが、いつもの姿を想像すると、悩みを聞いてもらったところで解決する気がしないのが少し残念だ。


「ありがと」


それでも気遣いがうれしくて笑顔を作ってお礼を言った。


「十文字くんも帰るよね」
「はい」


彼が二次会に顔を出すことはまずない。
ああいう騒がしい場所も好きではないと思う。

そもそも飲めないのだから、酔っぱらいだらけなのも苦痛なのかもしれない。


「駅まで一緒に行こう」
「送りますよ?」


今、なんて言った?