あの銀髪の男が蹴りを入れたときはすぐに消えたのに、何事もなかったかのようにヒョコッと起き上がり、ピョンと跳ねて近づいてくる。
「消えなさい!」
舌を握ったときの生温かくてぬるぬるした感覚がたしかに手に残っていて、吐き気がする。
怖がると付け込まれると思った私は、毅然とした態度で言い放ったが、数回飛び跳ねて近づいてきたカエルは、大きくジャンプをしてまた襲いかかってきた。
「嫌っ」
とっさに目を閉じて手で顔を守ったものの、ぶつかってきた感覚がない。
消えた?
恐る恐るまぶたを持ち上げると目の前に大きな背中があり、カエルの姿は消え去っていた。
十文字くん?
「そんなに走るからですよ。はい、おんぶ」
「はいっ?」
「気分が悪いんでしょ?」
あぁ、そうか。
顔を手で覆ったから、そう見えたのか。
カエルから助けてくれたのかと勘違いしそうだった。
「いや、おんぶっていう歳じゃないから……。それに体調はもう大丈夫」