十文字くんが聞いたことのないような低い声で反応するので驚いた。

しかも、仕事のときの弱々しい雰囲気はなりを潜めて、キリリと眉を上げて深沢さんを見ている。

しかし、なにが『なるほど』なのかさっぱりわからない。


いつもの的外れな返事なのだろうか。
それにしてはピリッとした空気が漂っているのが気になる。

私のうしろに隠れてばかりいる彼が深沢さんには挑戦的というか。


「二課の戦力が足りないということで、中途採用をふたり投入する予定です。他業種からの転職ですので、一から教育しなくてはなりません。そこで、篠崎さんの後輩を育てる力を借りたいのです」


営業ではなく教育のほうか。


「あやめは人を育てるのに長けてるもんね」


真由子が納得しているが、長けているなら十文字くんはそろそろ立派な営業マンとして巣立っているはずだ。


「ですが、そんな能力が自分にあるとは思えなくて……」