「深沢さん、これからどうぞよろしくお願いします」
頭を下げると、当然のように十文字くんも首を垂れる。
「いえいえ、こちらこそ」
深沢さんは優しい笑顔を見せた。
私がビール瓶を手にしてお酌をすると、彼はひと口飲んでいる。
でも、きっと大勢に注がれているんだろうなと感じたので、さらに追加するのはやめた。
「十文字くんでしたよね」
「はっ、はい。よろしくお願いします」
十文字くんは突然話を振られて驚いた様子だ。
そういえば、部長や課長が彼に話しかけることは少ない。
大体私を通してになる。
「篠崎さんについて随分経つそうですね。そろそろひとりで担当しないと」
飲み会の席でいきなりの厳しい言葉だった。
会社で言う機会はいくらでもあっただろうに。
ただ、深沢さんの意見が間違っているわけでもない。
ひとり立ちを考えてもいい時期だ。
「はい」
消え入るような声で返事をした十文字くんはうつむいてしまった。