「篠崎、なんだ?」
「深沢さん、人気だなと思って」
しらじらしすぎるが、酔っ払い相手だから大丈夫だろう。
「おっ、飲めるじゃないか」
十文字くんの前の空いたグラスを見て、野坂さんは満足そうだ。
「十文字くん、返杯しなくちゃ」
また注がれては困ると、野坂さんから瓶を取り上げた。
「よし、ごあいさつに行こう」
野坂さんが飲んでいるすきに、十文字くんを連れ立ち深沢さんのところに向かう。
「助かりました」
「自分でかわせるようにならないとダメよ」
「すみません……」
野坂さんも悪いので、そんなにしょげる必要もないけれど。
「篠崎さん」
「なに?」
「僕のそばにいてください。離れないでくださいね」
なに急に甘えてるの?
「そうね。でもひとり立ちしないと」
そう伝えると、彼は曖昧にうなずいた。
「あやめ、来た来た」
深沢さんの近くに行くと、真由子が手招きしている。
私は深沢さんの向かい側の真由子の隣、そして十文字くんはまたその隣に割り込んだ。