ふと深沢さんのほうに視線を移すと、真由子がちゃっかり正面の席を確保して談笑していた。

あの懐に入る技術を、十文字くんに少し分けてくれないだろうか。


「十文字くん、ちゃんと食べて元を取って帰りなよ。あなたビール飲まないんだから」


彼が唐揚げが好きなことを知っている私は、皿に取り分ける。
これじゃあ、本当に世話を焼くお母さんみたいだ。


「ありがとうございます。篠崎さん、ビールどうぞ」
「ありがと」


ビールは三回に分けてグラスに注ぐとクリーミーな泡ができる。

泡には炭酸が抜けるのを防いだり、苦みを和らげたりする効果があるので、丁寧に注いでもらいたいところだけれど、飲み会でいちいちそんなことはしていられない。

今日の主役、深沢さんの周囲は人だかりができているが、女子率が高い。

野坂さんたち先輩も一度あいさつに行ったが、すぐに戻ってきた。
どうやら真由子たち女性社員との話が盛り上がっていて入り込む余地はなかったとか。

たしかに楽しそうな笑い声が聞こえてくる。