「十文字くん、ウーロン茶頼もうか?」
「ありがとうございます。自分で」
彼がアルコールに弱いことは、二課の人は大体知っている。
だから最初は無理やり飲ませる人もいないが、酔ってくると別。
五つ年上の細身の男性・野坂(のさか)さんあたりがネクタイを外しだすと警戒しなければならない。
酒癖が悪いのだ。
しかもその野坂さん、今日は斜め前にいる。
しっかりウーロン茶を確保した十文字くんは、周りの人に無言でお酌を始めた。
気遣いはできるのだが、会話が続かないのでなかなか輪に入れないのが彼の残念なところだ。
「十文字は休みの日はなにしてるんだ?」
「家にいます」
「家でなにをするんだ?」
「なにも」
ずっとこんな調子。
話を振った先輩も、苦笑いして別の人と話し始める。
会話を膨らませる技術が必要ね……。
日頃から感じているが、彼の引っ込み思案な性格を変えるのは難しい。