「む、無理です。僕を見捨てないでください」
見捨てるどころか、背中を押しているつもりなんだけどな。
「そんなこと言ったって、いつまでもふたりでとはいかないよ? 会社も利益を上げなくちゃいけないんだし、ずっと研修というわけには……」
甘えすぎだと思ったので、ガツンとひと言。
すると彼は眉をひそめてしょげている。
「それなら二人分の得意先を一緒に回ればいいじゃないですか?」
その後一転、いい案を思いついた!というような笑みを見せるが、それは無理というものだ。
「効率が悪すぎるでしょ。一日に行ける得意先の数には限りがあるんだから」
現実を突きつければ、彼はハンドルに突っ伏してへこんでいる。
「次行くよ。……はっ!」
大きな声が出たのは、フロントガラスに先日首を絞めてきたカエルがぶつかってきたからだ。
しかし慌てて口を押えた。
十文字くんには見えていないはずだ。
カエルは長い舌を出し入れしながら、私を凝視している。