十文字くんは表向き恐縮しているのか、本気で思っているのかどちらだろう。
多分後者だとは思うけど。

せっかく声をかけてもらったのに、彼はあとずさり視線をそらしてしまった。

そこは押しよ!
私は代わりに口を開いた。


「彼も以前からお邪魔しておりまして……」
「そうだっけ?」


どうやら影が薄すぎて認識されていないようだ。
こんな営業も珍しい。


「十文字と申します。かわいがっていただければ」
「もちろんよ!」


パートさんの目がくぎ付けになっている。
イメージチェンジした甲斐があった。


陳列を直して車に戻ると、十文字くんが脱力して大きなため息をつく。
あれっ? 指先が震えてる?


「ね、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです。あんなに見られたのは初めてで……」


情けない声を出す十文字くんは、私の知っているちょっと冴えない彼そのものだ。


「褒められてるんだから、慣れなさいよ。ここ、ひとりで担当してみる?」


米山さんも好意的だし、なんとかなるかも。