「そろそろ、お店を出ますか?」
「そうですね。モニカはもういいんですか?」
「はい。私は大丈夫です」

 パンケーキを食べ、一息ついた二人は、帰り支度を始めた。
 モニカはテーブルに置かれたままになっていたクリップで止められた伝票を手に取ると、鞄を開けて財布を取り出したのだった。

「じゃあ、私が支払いますね」

 一応、パンケーキを注文する前に財布の中身を確認しているが、財布には二人分は余裕で支払える金額が入っていた。
 夢の中なら、支払いをする必要は無さそうだが、なんとなく良心が耐えられそうになかった。
 伝票を開いて値段を確認すると、マキウスが伝票を取ろうとした。

「貴女に支払いをさせるわけにはいきません。ここは私が支払います」
「でも、マキウス様。この世界のお金を持っているんですか?」

 モニカの言葉に、マキウスは「うっ」と言葉に詰まった。
 モニカは鞄を開けた時に、財布とお金が入っている事を確認したが、見たところマキウスは鞄を持っていなかった。

「ここは私が支払います。いつもお世話になっているんですから、夢の中ぐらいは支払わせて下さい」
「……わかりました。お願いします」

 二人揃って席を立ち、レジで会計を済ませると、にこやかな笑みを浮かべた店員に見送られて、店を後にしたのだった。

「次はどこに行きますか?」
「その前に……待って下さい。モニカ」

 先に行こうとしたモニカは、マキウスに呼び止められて振り返る。
 振り向くと、マキウスがゆっくり近づいて来たのだった。

「先程の様に、誰かにぶつかったら危険です。私のすぐ隣にいて下さい」

 振り返ったモニカの手を、マキウスの手が取った。
 そうして、そのまま握ったのだった。

「マキウス様?」
「たまには、こうして歩くのも悪くありませんよね?」
「そうですが……」
「嫌ですか?」

 マキウスが困ったような顔をしたので、モニカはぶんぶんと首を振ったのだった。

「嫌ではありませんが、その……恥ずかしくて……」
「恥ずかしい? これまでも何度かエスコートしてきましたが」
「そ、そうですが……でも、夢の中でも知り合いがいるかもしれませんし、見られたらと思うと……」
「夢の中ならいいでしょう。このまま行きましょう」
「え……。でも……」

 そんな躊躇うモニカの言葉は聞き入れず、マキウスは歩き出す。
 モニカは赤面した顔を伏せると、マキウスに続いたのだった。