「こうして寝ている姿を見ると、ニコラは可愛いですね」
「そうですね。儚くて、脆くて、だから赤ちゃんって可愛いんですよね」

 御國の言葉に、旦那様は「いいえ」と即答したのだった。

「ニコラの母親である貴女が可愛いからです。私には勿体ないくらいの素敵な女性で……」

 旦那様の言葉に、みるみるうちに御國の顔が赤面していくのがわかった。

「そんなことは……。どちらかと言えばニコラは旦那様に似ていると思います。ほら、この顔の形とか」

 御國はニコラの柔肌の頬をそっと指で突く。
 ニコラの顔はどちらかといえば細面寄りであり、丸顔の「モニカ」より旦那様に似ていた。

「今は寝ていますが、瞳の色も旦那様と同じ綺麗な紫色なんですよ!」
「そ、そうですか……」

 御國がくるりと旦那様の方を向くと、頬を赤くして、目を大きく見開いた旦那様の顔が目の前にあった。

「あ、あの。すみませんっ……!」
「い、いえ。私は気にしていません……!」

 御國は慌てて旦那様から離れると距離を取る。わずかに頬を赤く染めた旦那様もわざとらしい咳払いをしたのだった。

「そ、そこまで体調が万全そうなら、そろそろ歩く練習をしてみますか? まずは屋敷内を歩けるように」

 一か月間、意識不明で寝ていたというモニカの身体は、ベッドと部屋の中を歩くので精一杯であった。
 元々、妊娠と出産で体力が落ちていたところに一か月も寝てしまったので、体力が衰えてしまったかもしれない。目覚めたばかりの頃は、数歩歩いただけでも息切れを起こしていた。

「そうですね。そろそろ体調も良くなってきたのでやりたいです」
「わかりました。それならペルラにお願いしておきましょう」
「ペルラさん……ですか?」

 ペルラというのがメイド長の名前――この世界で目覚めたばかりの頃、旦那様になぜニコラを見せたのかと聞いて来たメイドの名前だと、ニコラを返してもらいながら、旦那様に教えてもらったのだった。

「それでは、モニカの身体に障るのでこれで失礼します。何かありましたら、また呼んで下さい」
「わかりました。あの、旦那様……」

 椅子を元の場所に片付けて、立ち去ろうとしていた旦那様は、御國に呼び止められて振り返った。

「おやすみなさい。今日はありがとうございました」
「モニカ……」

 目を見開いた旦那様は何かを言おうと口を開きかけたが、やがてポツリと呟いたのだった。

「……おやすみなさい」

 そうして、パタリと扉が閉まったのだった。