(この世界でも、他人に迷惑をかけて。本当、私ってダメな人間だな……)

 御國だった頃、家族や友人、同僚に何かと迷惑をかけてばかりだった。
 その度に両親には、「もっとしっかりして、周りに迷惑をかけないようにしなさい」と注意されたものだった。

 モニカはすぐに「心配をかけてすみません」と肩を落とす。

「早くマキウス様のお役に立ちたかっただけなんです。それが、迷惑をかけていたなんて気付かなくて……」
「迷惑と思ったことは、一度もありませんよ」
「そ、そうなんですか……?」

 はっきりと断言したマキウスの言葉に、モニカは面食らってしまった。
 瞬きを繰り返すと、マキウスは頷いたのだった。

「ただ、貴女の努力家な一面に舌を巻いているだけです。
 それと心配だったんです。私の存在が貴女に圧をかけてしまっているのではないかと」
「そんなことはありません! ただ私が勝手にやっているだけです。
 それに、これでもまだまだ努力が足りないくらいです。私自身どれだけ努力しているつもりでも、周囲からは『努力が足りない』と、ずっと言われていました」

 御國だった頃、どれだけ自分が努力したと思っても、周囲からは「まだまだ努力が足りない」と言われ続けた。
 その度に、際限のない「努力」に途方に暮れたものだった。

「以前の貴女が周囲からどう言われていたのかはわかりません。それでも、今の貴女の努力は伝わりました。少なくとも私には」

 マキウスが腕を伸ばしてきたので、咄嗟に目を瞑る。
 そっと眼を開けると、マキウスの指先がモニカの泣き腫らした目尻に触れて、まだわずかに残っていた涙を払ってくれたところだった。
 そのままじっとマキウスの手を見つめていると、顎まで頬を撫でられたのだった。

「私は貴女が私に相応しくないと思ったことはありません。貴女は今のままでも、充分、私の妻に相応しい」

「マキウス様……」

 マキウスは端正な顔に笑みを浮かべた。
 ニコラに向けているのと同じ笑みを向けられて、モニカの鼓動が早くなった。

「もっと自分に自信を持って下さい。貴女が貴女自身を信じなくてどうするんですか?」
「それは……」

 モニカが口ごもると、マキウスの指がモニカの唇に触れた。
 愛おしむ様な笑みに鼓動が早くなる。

「私は貴女のことを信じています。貴女に信頼されたいですからね」

 信頼は一方通行では成立しない。
 お互いが信頼し合って、始めて成り立つ。
 マキウスがモニカを信用してくれるなら、モニカもマキウスを信用しなければならない。
 マキウスから信頼を得たいと思っているのであれば、尚更。

「マキウス様、あの……!」

 モニカが口を開けた、その時ーー。

「お待たせしました!」

 若い女性店員が、モニカたちの元にやってきた。
 マキウスはサッと手を引っ込めたのだった。