「嬉しかった……ですか?」
「はい! だって、私はようやくマキウス様の妻になったんだ。結婚したんだって自覚が持てたんです!」

「それに」と、モニカは顔を赤らめた。

「こんな私でも、ようやく、マキウス様に『妻』と思えてもらえたんだって。安心しました」
 
 書類の上では、モニカはマキウスと夫婦になっている。
 けれども、マキウスからは一向に「妻」だと言ってもらえなかった。
 それがずっと気がかりだった。

 自分はマキウスの妻に相応しくないのだろうか。
 マキウスの妻として、足りないものがあるのだろうか。
 自分が未熟だから、マキウスに妻として思われていないのだろうか。
 モニカは密かに考え続けていたのだった。
 
「もし、マキウス様から妻に相応しくないと思われたら、屋敷から追い出されるのかもしれない、と不安に思っていました」
 
 ほとんど知り合いがいない世界で、一人になったら、モニカはどうやって生きていけばいいのだろうか。
 そうならないようにするには、どうしたらいいのだろうか。
 モニカは考え続けていた。
 マキウスとの婚姻届に名前を書いた、あの日からーー。
 
「だから、マキウス様に相応しい妻になれるように頑張ってきました。
 一日でも早く、貴方の隣に立つのに相応しい人にーー貴方の妻に、なれる為にも」
「モニカ……」

 マキウスは目を大きく見開いた。

「それで、貴女は無理をしていたのですね」
「無理だなんて、そんな……」
「私以外の誰が見ても、貴女は無理をしていました。……こちらが心配になるくらいに」

 マキウスは悲しげに首を振ったのだった。
 
「貴女はニコラの育児だけではなく、屋敷のこと、私たちの世界のこと、なんでも知ろうとしていました。
 私がいない時は、屋敷の者たちに聞いていましたね」
「あ……それは……。でも、どうしてマキウス様が知っているんですか?」
「私の元に、使用人たちからその報告が来ていたからです。
 その度に私は、貴女がいつか倒れてしまうのではないかと、心配していました。ーー倒れたら、今度こそ、目を覚まさなくなるのではないのかと」

 不安そうに俯くマキウスに、モニカは目を見張る。
 確かに、ニコラの育児の片手間に、手が空くと、マキウスの世界のことを知って、貴族の女性として相応しい振る舞いが出来るように使用人たちに聞いていた。
 まさか、マキウスが知っていたとは思わなかったがーー。

(もしかして、最近、部屋の外で声を掛けてくれるようになったのも、私を心配して……?)

 だとしたら、マキウスには余計な負担をかけてしまったかもしれない。
 マキウスの役に立ちたいのに、マキウスに心配をかけてしまったら、それこそ本末転倒だった。