【改稿版】ハージェント家の天使

「ま、マキウス様……!」
「何だ!? コイツ!?」

 これにはモニカだけではなく、男性は目を見開いた。
 けれども、マキウスはモニカの肩を抱く手に力を込めただけだった。

「私の妻を愚弄したのです。夫である私が怒るのは当たり前です!」

 マキウスは男性をキッと睨みつけた。

「貴方は連れの女性を心配されました。夫である私が妻を心配して、何かおかしいですか?」

 男性はうっと言葉に詰まったようだった。
 そんな男性の腕を女性が引いた。

「もう謝っちゃおうよ。めんどいしさ」
「ああ、わかった」

 男性は面倒そうに、小さく頭を下げた。

「すんませんでした。あんたたちを馬鹿にして」
「はいはい。すみません」

 謝罪する気のない男性に続いて、女性も嫌々小さく頭を下げると、二人はそのまま立ち去ろうとした。

「待ちなさい! その態度……!」
「マキウス様!」

 カップルを追いかけようとしたマキウスの腕に、モニカはしがみついた。

「私は大丈夫ですから!!」
「モニカ……」
「私は大丈夫です! 大丈夫ですから……」

 声は尻すぼみとなり、震えていった。
 マキウスは困ったように、モニカを見落としたのだった。

「すみません、モニカ。私としたことが、頭に血が上ってしまって……」
「いいえ。マキウス様は悪くないんです。私がはっきり言わなかったから悪いんです……」

 モニカは何度も首を振ると、やがて涙を零した。

 今ならわかる気がした。
 この夢から出るには、自分の気持ちをはっきり言わなければならなかったのだ。
 これは、自分がーー御國が感じた無念を具現化させた夢なんだと。
 夢でもいいから、はっきり「痛い」と、「謝って欲しい」と言えばいいだけだった。
 一人が寂しいとも、悔しいとも、言えば良かったのだ。

「モニカ……。やはり、どこか痛みますか?」

 言葉にならなくて、何度も首を振る。
 涙は後から後から出てきて、やがて滂沱の涙となった。

「モニカ……」
「ご、ごめんな、さい……。涙、止まらなくて……」

 急に泣き出したモニカの肩を、マキウスは困惑しながらも優しく抱きしめてくれたのだった。

「大丈夫です。この先、何があっても、私が守りますから」
「う……はい……」

 アーケードの真ん中で抱き合う二人を、周囲は奇異な目で見ては行き過ぎていった。
 モニカの涙が止まるまで、マキウスは抱きしめてくれたのだった。