「マキウス……様……?」

 モニカは瞬きを繰り返した。
 これまでにはない展開であった。
 今まで、この夢の中に「モニカ」の知り合いが出てくることなど無かった。
 ここに出てくるのは、全て御國の頃に出会った者たちだった。

「やはり、モニカなのですね」

 男性はーーマキウスは、安心した様にほっと胸を撫で下ろしたようだった。

「いつもと容姿が違うので、人違いかと思いましたが……。良かったです。安心しました」
「それは、マキウス様も同じです。一瞬、誰かと思いましたよ」

 モニカが返すと、マキウスは不思議そうに首を傾げた。
 鞄に入っているスマートフォンを取り出すと、カメラを起動させて自撮りモードに切り替えた。
 そうして、スマートフォンの画面をマキウスに向けたのだった。

「この小さな板は何ですか?」
「そうですね……。説明すると長くなるので、今は鏡代わりだと思って下さい」
「鏡ですか……」

 恐る恐るといった様子でモニカが持つスマートフォンの画面を覗き込んだマキウスだったが、大きく目を見開いたのだった。

「なっ……! この姿は!?」

 そこに映っていたのは、一人のカーネ族ではなく、一人の人間であった。
 顔形や声、体型はマキウスのままであった。
 けれども、白色に近い灰色の髪も、アメシストの様な紫色の瞳も、カラスの様な濡羽色であった。
 髪の長さもいつもよりも短く、首筋の辺りで切られ、前髪も心なしか短くなっているようであった。
 服装もいつも見ている騎士団の制服やスーツを着崩した様な部屋着ではなく、膝まである黒のコート、黒地に白色のチェックのシャツ、紺色のスキニージーンズ、白色のスニーカーだった。

「これが、私だということですか……」
「そうですね。でも、この姿のマキウス様も新鮮です……」
「変ではありませんか?」
「へ、変なんてことありません! どちらかと言えば、その……かっこいいです……」
「そうですか……」

 恐らく、モニカだけでなくマキウスも、この夢に合う様に姿が変わったのだろう。
 この夢には、金髪のモニカだけでなく、カーネ族のマキウスも不釣り合いだから。

 含羞(がんしゅう)を帯びた笑みを浮かべたマキウスだったが、そんなマキウスのいつもとは違った姿に、モニカもまた胸が高鳴ったのだった。

「そういえば、マキウス様のモフモフのお耳が、無くなっていますね」

 マキウスの頭からはモフモフの毛が生えた黒色の犬の様な耳は無くなっていた。
 その代わりに、モニカと同じ位置に、同じ形の人間と同じ耳がついていたのだった。

「そうですね……。道理で、音が聞こえ辛いと思いました。視界も狭くて……」

 マキウスは不思議そうに、黒色に染まった瞳でスマートフォンを鏡代わりにしながら、何度も自分の両耳を引っ張っていた。
 マキウスによると、身体能力に優れたカーネ族の耳は、一キロ以上離れた遠くの音まで聞くことが出来るらしい。
 目も人間よりも遥かに遠くまで見えるとのことだった。