「まただ……」

 夢の中で、モニカはため息をついた。
 いつもと違い、何故か今夜は夢から目覚めることなく最初に戻ってしまった。

 いつもなら夢から覚めるはずが、気づけばアーケードの同じ場所に立っていた。
 モニカの後ろをいつもと同じ人々が、同じ順番に通り過ぎて行ったのだった。

 この悪夢から脱出しようと試みる中で、いくつか気づいたことがあった。
 アーケード内のお店に入ろうとすると、まるで透明な壁に阻まれているかの様に中に入ることが出来なかった。
 ただし、実際に御國だった頃のモニカが入ったことのあるお店だけは、店内に入ることが可能だった。
 並んでいる商品や内装も、最後にモニカが入った時と同じであった。
 最後に店内に入った時期がバラバラだからか、春の内装の店があれば、その隣の店は夏物を売り出しており、さらに隣の店は秋の内装となっていた。
 季節感も統一されておらず、チグハグな空間がアーケードの中に広がっていたのだった。

 また、試しにアーケードの中を反対方向に歩いてみた。
 本来なら反対側に歩けば、御國が亡くなる前に通った大きな駅に辿り着くはずだった。
 それなのに、何故か駅に辿り着くことはなく、カップルとぶつかるアーケードの中に戻ってきてしまった。
 ここからどの道を歩き、途中で道を変えても、必ず同じ場所に辿り着き、同じカップルにぶつかるのだ。
 この夢に意味があるのならば、カップルとぶつかる時に何か行動を起こす必要があるのだろう。
 一体、何をーー?
 
 信号が変わって人の流れに混ざって歩き出す前に、モニカはふと思い立って、鞄の中を開けてみた。

(もしかしたら、今回こそは「アレ」があるかもしれない)

 モニカが鞄の中を漁ると、鞄の側面のポケットから「アレ」が出てきた。
 紫色のイヤフォンと青色の掌サイズの電子機器ーー音楽再生プレーヤーの電源をモニカは入れた。
 中に入っている曲は、モニカが最後に見た時と同じだった。

(良かった。今回はあった……)

 モニカは安心して口元を緩めると、いつものように耳にイヤフォンを入れようとした。
 その時だった。

「モニカ……?」

 聞き覚えのある綺麗なテノールボイスが、モニカの耳に入ってきたのだった。
 
(この声……まさか……)

 この姿のモニカの名前を呼ぶ人間など、そういないはず。
 声が聞こえてきた方を振り向くと、そこには見覚えのある男性が立っていたのだった。