「モニカ、どうしましたか? 食が進んでいないようですが……?」
その日の夜、約束通りにマキウスと晩餐を過ごしていたモニカだったが、全く食べていなかったので怪しまれたのだろう。
先に食べ終わっていたマキウスは、しかめ面をしていたのだった。
「料理が口に合いませんか? 料理人に頼んで、何か別のものを作らせますが……」
「えっ……!? す、すみません。どうも、昼間にニコラの離乳食の余りを食べたら、あまりお腹が空いていないみたいで……」
モニカが誤魔化すと、グラスを持ち上げたマキウスは、「そうなんですか?」と尋ねてきたのだった。
「ニコラの余りなら無理して召し上らなくとも、使用人で食べます。ですから……」
そもそも、屋敷の主人の妻が余り物を食べるなどあり得ないだろう。
ーーあまりにもニコラが物足りなさそうので、つい美味しいのかと食べてしまうが。
この屋敷の料理はどれも美味しく、フルコースのような料理が毎日出てくる。
マキウスの話によると、屋敷に住んでいる専属の料理人も、ヴィオーラが選んだ自慢の料理人らしい。
ヴィオーラの屋敷で料理人として働いていた中から、特に腕の良い者を選んでくれたとのことだった。
実際にニコラが食べている離乳食も、味付けは一切されていないながらも、舌触りの良いペースト状になっており、素材の味もしっかり出ていた。
それ以外のモニカやマキウスが普段食べている料理も、素材の味を生かして味付けされており、物足りなさを全く感じさせなかった。
飲み物やお菓子も同じで、いつもなら舌鼓を打っていただろう。
「そ、そうですよね! じゃ、じゃあ、最近コルセットを身につけ始めたから、きっとお腹がキツイだけなのかもしれません!」
最近、体調が快調したからと、モニカは今まで着けていなかったコルセットを身につけ始めた。
貴族の女性の中でも、特に出産後の女性は身体の骨格が崩れやすいからと、コルセットを身につけるのが通例らしい。
ただ、モニカは階段から落ちて、ずっと寝ていたということもあって、身体に負担をかけないように、今まで身につけていなかった。
先日、定期的にモニカ親娘を診察してくれる医師から、「母親はもう大丈夫」とお墨付きをもらったので、ペルラたちの勧めもあって、コルセットを身につけ始めたのだった。
御國だった頃に噂で聞いていたが、やはりコルセットは腹部が痛くなるくらい、かなりきつく締められた。
これなら、昔の女性がコルセットをきつく締められたせいで、気を失い、酷い時には命を落としたという話もわかるような気がした。
「そうでしたか。それだけなら良いのですが……」
まだ疑うマキウスに、モニカは何度も「大丈夫です」と頷いたのだった。
「コルセットも嫌なら無理して着ける必要はありません。現に、姉上は着けていなかったはずです」
「お姉様が?」
「ええ。子供の頃からこう言っていましたよ。『コルセットに身体を守られるくらいなら、自分で守った方がマシです』と」
「お姉様らしいですね」
そんなヴィオーラの様子を思い浮かべた二人は、顔を見合わせるとクスクスと笑ったのだった。
しばらくして、マキウスと談笑しながらデザートのシャーベットらしき甘い氷菓子を食べ終わると、モニカは席を立った。
「マキウス様。少し早いですが、私は先に部屋に戻ります」
「モニカ」
部屋の隅に控えていたティカに扉を開けてもらったところで、後ろから声を掛けられた。
「後ほど、部屋に伺っても良いでしょうか?」
「はい。構いませんが……?」
モニカは首を傾げながら返すと、マキウスは意味深に頷いたのだった。
(魔力の補給だけなら、改めて聞かなくてもいつも部屋に来るのに……?)
そんなことを考えながら、モニカは自室に戻ったのだった。
その日の夜、約束通りにマキウスと晩餐を過ごしていたモニカだったが、全く食べていなかったので怪しまれたのだろう。
先に食べ終わっていたマキウスは、しかめ面をしていたのだった。
「料理が口に合いませんか? 料理人に頼んで、何か別のものを作らせますが……」
「えっ……!? す、すみません。どうも、昼間にニコラの離乳食の余りを食べたら、あまりお腹が空いていないみたいで……」
モニカが誤魔化すと、グラスを持ち上げたマキウスは、「そうなんですか?」と尋ねてきたのだった。
「ニコラの余りなら無理して召し上らなくとも、使用人で食べます。ですから……」
そもそも、屋敷の主人の妻が余り物を食べるなどあり得ないだろう。
ーーあまりにもニコラが物足りなさそうので、つい美味しいのかと食べてしまうが。
この屋敷の料理はどれも美味しく、フルコースのような料理が毎日出てくる。
マキウスの話によると、屋敷に住んでいる専属の料理人も、ヴィオーラが選んだ自慢の料理人らしい。
ヴィオーラの屋敷で料理人として働いていた中から、特に腕の良い者を選んでくれたとのことだった。
実際にニコラが食べている離乳食も、味付けは一切されていないながらも、舌触りの良いペースト状になっており、素材の味もしっかり出ていた。
それ以外のモニカやマキウスが普段食べている料理も、素材の味を生かして味付けされており、物足りなさを全く感じさせなかった。
飲み物やお菓子も同じで、いつもなら舌鼓を打っていただろう。
「そ、そうですよね! じゃ、じゃあ、最近コルセットを身につけ始めたから、きっとお腹がキツイだけなのかもしれません!」
最近、体調が快調したからと、モニカは今まで着けていなかったコルセットを身につけ始めた。
貴族の女性の中でも、特に出産後の女性は身体の骨格が崩れやすいからと、コルセットを身につけるのが通例らしい。
ただ、モニカは階段から落ちて、ずっと寝ていたということもあって、身体に負担をかけないように、今まで身につけていなかった。
先日、定期的にモニカ親娘を診察してくれる医師から、「母親はもう大丈夫」とお墨付きをもらったので、ペルラたちの勧めもあって、コルセットを身につけ始めたのだった。
御國だった頃に噂で聞いていたが、やはりコルセットは腹部が痛くなるくらい、かなりきつく締められた。
これなら、昔の女性がコルセットをきつく締められたせいで、気を失い、酷い時には命を落としたという話もわかるような気がした。
「そうでしたか。それだけなら良いのですが……」
まだ疑うマキウスに、モニカは何度も「大丈夫です」と頷いたのだった。
「コルセットも嫌なら無理して着ける必要はありません。現に、姉上は着けていなかったはずです」
「お姉様が?」
「ええ。子供の頃からこう言っていましたよ。『コルセットに身体を守られるくらいなら、自分で守った方がマシです』と」
「お姉様らしいですね」
そんなヴィオーラの様子を思い浮かべた二人は、顔を見合わせるとクスクスと笑ったのだった。
しばらくして、マキウスと談笑しながらデザートのシャーベットらしき甘い氷菓子を食べ終わると、モニカは席を立った。
「マキウス様。少し早いですが、私は先に部屋に戻ります」
「モニカ」
部屋の隅に控えていたティカに扉を開けてもらったところで、後ろから声を掛けられた。
「後ほど、部屋に伺っても良いでしょうか?」
「はい。構いませんが……?」
モニカは首を傾げながら返すと、マキウスは意味深に頷いたのだった。
(魔力の補給だけなら、改めて聞かなくてもいつも部屋に来るのに……?)
そんなことを考えながら、モニカは自室に戻ったのだった。