モニカが目を開けると、そこは見慣れたアーケードの中であった。
年季の入った大理石のタイルの上に、ところどころ残る鳩の忘れ物。
上を見上げればガラスの天井に覆われ、その外側には数羽の鳩が羽根を休めていたのだった。
「ここは……」
呆然と立つモニカの後ろを数人の女性同士のグループ、サラリーマン、カップル、主婦、お年寄り、家族連れなどが通って行った。
スマートフォンで話しながら歩く人もいれば、イヤフォンで音楽を聞いている人、数人のグループで談笑している人など、各々が各々の目的地に向かって歩いていた。
人々の話し声だけでなく、遠くからは車のエンジン音や、宣伝カーの音楽も聞こえてきたのだった。
「元の世界に帰って来たの?」
そんな喧騒だけではなく、アーケードの入り口からは、勤め人に人気の立ち食い蕎麦屋の美味しそうな出汁の匂いが漂ってきた。
モニカは行ったことはないが、父親が絶賛していたのを覚えている。
蕎麦屋の隣にはドラッグストアが建ち、店頭にはチラシに掲載された特売品が並び、それに足を止める者や、店頭の商品を手に取って店内に入っていく者など、老若男女関係なくひっきりなしにお店の中に消えて行った。
蕎麦屋の向かいには、最近オープンしたというイタリアレストランが建ち、食事を終えた若いカップルが出て来た。
外国のパブをイメージしたのか、古めかしい木造風の建物であるイタリアンレストランは、「イタリア料理」と木製の看板に書かれていながらも、何故か日本食の蕎麦も提供していると、インターネットで噂になっていた。
機会があれば、学生時代の友人を誘って、噂を確かめに行きたいと思っていた。
けれども、モニカはその真偽を確かめる前に亡くなってしまった。
そんな噂のイタリアンレストランの前には大きな横断歩道があり、先程店から出てきた若いカップルを始めとする大勢の人が、信号機が変わる瞬間を待っていたのだった。
(ああ、これは……)
これは、モニカの生前ーー御國だった頃の記憶だ。
自分が住み慣れた街の中心部、新幹線が通って、新しく地下鉄が開通して、大型商業施設に囲まれたそんな駅近くのアーケード街。
アーケード街の側には、御國が転落した階段があるはずだった。
そんな人の往来が絶えないアーケード街の入り口近く、閉店したのかシャッターで固く閉ざされた店の前にモニカは立っていた。
(ここにあったのは、何のお店だったっけ……?)
長年住み慣れた街にも関わらず、目の前のシャッターをじっと見つめても、ここにあったお店が何だったのか思い出せなかった。
モニカは諦めて、自分の服に目を落とす。
小さな白い花が散りばめられた紺色ワンピースと、白色の膝丈まである白色の薄手のカーディガンを着ていた。
下は黒色のタイツ、白色のリボン飾りがついた紺色のパンプスを履き、肩からは茶色の肩掛け鞄を持っていたのだった。
どれも御國だった頃に、気に入っていた服と鞄であった。
(このワンピース……)
モニカはワンピースの裾を摘むと、じっくり見る。
このワンピースは御國だった頃に気になって買ったものの、自分には似合わないからと一度着て断念した物だった。
あの時と寸分違わぬワンピースを、今のモニカは着ていたのだった。
「変な夢……」
信号が変わったのか、アーケードを歩く人の往来が増えた。
雑踏に紛れる様にして、モニカは歩き出したのだった。
年季の入った大理石のタイルの上に、ところどころ残る鳩の忘れ物。
上を見上げればガラスの天井に覆われ、その外側には数羽の鳩が羽根を休めていたのだった。
「ここは……」
呆然と立つモニカの後ろを数人の女性同士のグループ、サラリーマン、カップル、主婦、お年寄り、家族連れなどが通って行った。
スマートフォンで話しながら歩く人もいれば、イヤフォンで音楽を聞いている人、数人のグループで談笑している人など、各々が各々の目的地に向かって歩いていた。
人々の話し声だけでなく、遠くからは車のエンジン音や、宣伝カーの音楽も聞こえてきたのだった。
「元の世界に帰って来たの?」
そんな喧騒だけではなく、アーケードの入り口からは、勤め人に人気の立ち食い蕎麦屋の美味しそうな出汁の匂いが漂ってきた。
モニカは行ったことはないが、父親が絶賛していたのを覚えている。
蕎麦屋の隣にはドラッグストアが建ち、店頭にはチラシに掲載された特売品が並び、それに足を止める者や、店頭の商品を手に取って店内に入っていく者など、老若男女関係なくひっきりなしにお店の中に消えて行った。
蕎麦屋の向かいには、最近オープンしたというイタリアレストランが建ち、食事を終えた若いカップルが出て来た。
外国のパブをイメージしたのか、古めかしい木造風の建物であるイタリアンレストランは、「イタリア料理」と木製の看板に書かれていながらも、何故か日本食の蕎麦も提供していると、インターネットで噂になっていた。
機会があれば、学生時代の友人を誘って、噂を確かめに行きたいと思っていた。
けれども、モニカはその真偽を確かめる前に亡くなってしまった。
そんな噂のイタリアンレストランの前には大きな横断歩道があり、先程店から出てきた若いカップルを始めとする大勢の人が、信号機が変わる瞬間を待っていたのだった。
(ああ、これは……)
これは、モニカの生前ーー御國だった頃の記憶だ。
自分が住み慣れた街の中心部、新幹線が通って、新しく地下鉄が開通して、大型商業施設に囲まれたそんな駅近くのアーケード街。
アーケード街の側には、御國が転落した階段があるはずだった。
そんな人の往来が絶えないアーケード街の入り口近く、閉店したのかシャッターで固く閉ざされた店の前にモニカは立っていた。
(ここにあったのは、何のお店だったっけ……?)
長年住み慣れた街にも関わらず、目の前のシャッターをじっと見つめても、ここにあったお店が何だったのか思い出せなかった。
モニカは諦めて、自分の服に目を落とす。
小さな白い花が散りばめられた紺色ワンピースと、白色の膝丈まである白色の薄手のカーディガンを着ていた。
下は黒色のタイツ、白色のリボン飾りがついた紺色のパンプスを履き、肩からは茶色の肩掛け鞄を持っていたのだった。
どれも御國だった頃に、気に入っていた服と鞄であった。
(このワンピース……)
モニカはワンピースの裾を摘むと、じっくり見る。
このワンピースは御國だった頃に気になって買ったものの、自分には似合わないからと一度着て断念した物だった。
あの時と寸分違わぬワンピースを、今のモニカは着ていたのだった。
「変な夢……」
信号が変わったのか、アーケードを歩く人の往来が増えた。
雑踏に紛れる様にして、モニカは歩き出したのだった。