「貴女がこれまで住んでいたところでは、天気はわからないのですか?」
「そうですね。今後の天気を教えてくれる天気予報はありましたが、必ず当たる訳ではなかったです」

 モニカは腕を伸ばすと、頭上の空に手をかざした。

「風が吹けば海から雲が流れてきます。
 雨雲が流れてくることもあれば、時には台風だってやってきます。
 季節によっては、雷雨の日があれば、雪が降る日もあるんです」
「海があるということは、貴女の国は、広い領土を持っているんですか?」
「私の国はさほど広い国ではありません。
 他国の近くで生まれた台風が、私の国にやって来るんです」

 モニカが元の世界での天気について説明すると、マキウスは興味深く聞いていたのだった。
 モニカが話し終えると、灰色の髪を揺らして、ゆっくりと首を振った。

「この国ではあり得ません。ガランツスではあるらしいですが」
「じゃあ、私の国はガランツスと似ているのかもしれませんね。
 私の世界の空は丸くなければ、どこまでも続いているので」

 モニカの言葉に、マキウスは瞬きをしたのだった。

「……空は丸くないのですか?」
「そうですよ。空は果てしなく続いているんです。
 雲を越えて、大気圏を越えて、宇宙に向かって、どこまでも続いています」

 マキウスは顎に手を当てると、何か考え込んでいるようだった。

「……昔、まだ侯爵家に住んでいた頃に、そんな本を読んだ気がします。姉上と一緒に」

 マキウスの話によると、マキウスがまだブーゲンビリア家に住んでいた頃、ヴィオーラと一緒にガランツスに関する子供向けの本を読んだことがあった。
 その本に、「ガランツスの空は果てしなく続いている」と書かれていたのを、マキウスはずっと覚えていたらしい。

「そうですよ。マキウス様はこの国から出たことは無いんですか?」
「ありません。この国から出るには、伯爵以上の爵位持っているか、国の命令で行くかのどちらかしかありません」

 お互いの国の安全を守る為に、今でも両国を行き来するには、品行に問題がないと国の厳しい審査を通るか、国の推薦を受けなければならなかった。
 品行に問題がなくても、そもそも国の審査を受けられるのは、伯爵以上の貴族のみであり、国の推薦を受けられるのは政治家か文官、または騎士だけであった。

「国から出られるのは、王族に連なる者か侯爵の爵位を持つ者、政治家か文官、またはその護衛を務める騎士だけです。
 私の様に爵位が低く、ただの一騎士の身では到底叶いそうにありません」

 マキウスは肩を落としただけではなく、心なしかモフモフの毛の生えた耳まで垂れているように見えた。

「いつの日か、国を出て、広い空を見たいものです」
「そうですね。その時は、私とニコラも一緒に行きたいです!」

 マキウスの身体に、そっと身を寄せるとねだるように端正な顔立ちの夫を見つめたのだった。

「……妻子(私達)も連れて行ってくれますよね?」

 顔を覗き込んだモニカの肩を、マキウスは抱き寄せたのだった。

「ええ。勿論です。その時は必ず私がお連れします」

 二人の頭上では、今日も星が瞬いていた。
 夫婦として、また距離を縮めた二人の姿を、星空は優しく見守っていたのだった。