ヴィオーラが来た日の夜。
ニコラをアマンテに預けると、魔法石に魔力を補充してもらう為、マキウスの寝室にやって来た。
最近は魔力を補充してもらう為、お互いの寝室に行き来する回数が増えていた。
先に用事を済ませた方が、相手の部屋に行き、相手の用事が終わるのを待つ。
いつの間にか、それが二人の間で、暗黙の了解となっていたのだった。
「マキウス様。私です。モニカです」
扉を叩いて声を掛けるが、マキウスからの返事はなかった。
「いないのかな……?」
ドアノブに触れると、鍵が掛かっていなかったようで、扉はすんなりと開いた。
「失礼します……」
恐る恐る部屋に入ると、マキウスの姿はなかったが室内の明かりは付いていた。
「マキウス様……?」
どこからか風が吹いてきて室内を見渡すと、バルコニーに続く窓が開いており、そこに灰色の影が見えていた。
モニカはそっと微笑むと、バルコニーへと向かったのだった。
「マキウス様。ここにいらしたんですね」
「……モニカですか」
モニカの顔を見るなり、マキウスはムスッとしてすぐ顔を背けた。
昼間、モニカがヴィオーラに抱きついているところにやって来たマキウスだったが、ヴィオーラの去り際に、モニカが大きく手を振って「お姉様~」と呼んでいたのが気に入らなかったらしい。
ヴィオーラが帰ってから、ずっと不貞腐れていたのだった。
「マキウス様……。まだ嫉妬しているんですか?」
「嫉妬などしていません」
「……本当に?」
「本当です」
マキウスの隣に行くと、バルコニーの手摺りを掴んで、顔を覗き込んだ。
「嘘ですよね。私とヴィオーラ様が仲良くしていたのが、悔しかったんですよね」
モニカと目も合わせないで、ずっと黙っているのがその証拠だった。
ヴィオーラだけではなく、恐らくモニカも、マキウスにとっては大切な存在。
姉に妻を、妻に姉を取られたように思ったのかもしれない。
御國だった頃、下の弟妹が同じ様に不貞腐れたことがあったので、モニカにも身に覚えがあった。
(マキウス様も嫉妬することがあるんだ……)
これまで、クールでしっかりしたマキウスの姿しか知らなかったので、姉ラブな弟らしい一面に、ついモニカは笑ってしまう。
「どんなにお姉様に憧れて、どんなに仲が良くても、私が一番好きなのは、今の家族であるマキウス様とニコラです。
それだけは忘れないで下さいね」
「モニカ……」
あの時、「お姉様」のヴィオーラに抱いた感情。
それは、きっと憧れに違いない。
なんでも出来て、自信に満ちたヴィオーラ。
女性として美しく、騎士として頼もしく、義姉として優しい存在。
まさに、モニカの理想の「姉」であり、理想の「女性像」そのものであった。
そんな憧憬に似た感情を、ヴィオーラに抱いたのだろう。
特に、モニカにはーー御國には姉や兄がいなかったので、ますますヴィオーラは憧れの存在であった。
振り返ったマキウスは紫色の目を瞬かせると、またすぐに目を逸らす。
「私も貴女とニコラが好きですよ」
「家族として、ですよね」
「ええ。家族として、一人の女性として、貴女を愛しています」
「マキウス様……!」
まさか、「愛している」と言われるとは思わず、モニカは目を丸く見開いた。
マキウス自身も面と向かって、「愛している」と言ったのが恥ずかしかったのか、赤面した顔のまま「それにしても」と、話題を変えたのだった。
「貴女のおかげで、姉上と話すことが出来ました。その姉上も貴女に感謝していました。改めて、礼を言わせて下さい。……ありがとうございます」
胸を片手で押さえて軽く頭を下げたマキウスに、モニカは微笑んだ。
ニコラをアマンテに預けると、魔法石に魔力を補充してもらう為、マキウスの寝室にやって来た。
最近は魔力を補充してもらう為、お互いの寝室に行き来する回数が増えていた。
先に用事を済ませた方が、相手の部屋に行き、相手の用事が終わるのを待つ。
いつの間にか、それが二人の間で、暗黙の了解となっていたのだった。
「マキウス様。私です。モニカです」
扉を叩いて声を掛けるが、マキウスからの返事はなかった。
「いないのかな……?」
ドアノブに触れると、鍵が掛かっていなかったようで、扉はすんなりと開いた。
「失礼します……」
恐る恐る部屋に入ると、マキウスの姿はなかったが室内の明かりは付いていた。
「マキウス様……?」
どこからか風が吹いてきて室内を見渡すと、バルコニーに続く窓が開いており、そこに灰色の影が見えていた。
モニカはそっと微笑むと、バルコニーへと向かったのだった。
「マキウス様。ここにいらしたんですね」
「……モニカですか」
モニカの顔を見るなり、マキウスはムスッとしてすぐ顔を背けた。
昼間、モニカがヴィオーラに抱きついているところにやって来たマキウスだったが、ヴィオーラの去り際に、モニカが大きく手を振って「お姉様~」と呼んでいたのが気に入らなかったらしい。
ヴィオーラが帰ってから、ずっと不貞腐れていたのだった。
「マキウス様……。まだ嫉妬しているんですか?」
「嫉妬などしていません」
「……本当に?」
「本当です」
マキウスの隣に行くと、バルコニーの手摺りを掴んで、顔を覗き込んだ。
「嘘ですよね。私とヴィオーラ様が仲良くしていたのが、悔しかったんですよね」
モニカと目も合わせないで、ずっと黙っているのがその証拠だった。
ヴィオーラだけではなく、恐らくモニカも、マキウスにとっては大切な存在。
姉に妻を、妻に姉を取られたように思ったのかもしれない。
御國だった頃、下の弟妹が同じ様に不貞腐れたことがあったので、モニカにも身に覚えがあった。
(マキウス様も嫉妬することがあるんだ……)
これまで、クールでしっかりしたマキウスの姿しか知らなかったので、姉ラブな弟らしい一面に、ついモニカは笑ってしまう。
「どんなにお姉様に憧れて、どんなに仲が良くても、私が一番好きなのは、今の家族であるマキウス様とニコラです。
それだけは忘れないで下さいね」
「モニカ……」
あの時、「お姉様」のヴィオーラに抱いた感情。
それは、きっと憧れに違いない。
なんでも出来て、自信に満ちたヴィオーラ。
女性として美しく、騎士として頼もしく、義姉として優しい存在。
まさに、モニカの理想の「姉」であり、理想の「女性像」そのものであった。
そんな憧憬に似た感情を、ヴィオーラに抱いたのだろう。
特に、モニカにはーー御國には姉や兄がいなかったので、ますますヴィオーラは憧れの存在であった。
振り返ったマキウスは紫色の目を瞬かせると、またすぐに目を逸らす。
「私も貴女とニコラが好きですよ」
「家族として、ですよね」
「ええ。家族として、一人の女性として、貴女を愛しています」
「マキウス様……!」
まさか、「愛している」と言われるとは思わず、モニカは目を丸く見開いた。
マキウス自身も面と向かって、「愛している」と言ったのが恥ずかしかったのか、赤面した顔のまま「それにしても」と、話題を変えたのだった。
「貴女のおかげで、姉上と話すことが出来ました。その姉上も貴女に感謝していました。改めて、礼を言わせて下さい。……ありがとうございます」
胸を片手で押さえて軽く頭を下げたマキウスに、モニカは微笑んだ。