最近、どこかで似たような質問をされたと思いながらも、マキウスは強く頷いた。

「……ええ。好きです。愛しています」

 前のモニカも、今のモニカも、マキウスは好きであった。
 前者は一目惚れ、後者は性格も全てひっくるめて。
 ただ、どちらがより好きかと聞かれたらーー答えに窮してしまう。

「モニカさんに、ちゃんと伝えましたか?」
「姉上?」

 マキウスが首を傾げた。
 どうも、今のモニカも、前のモニカも、愛されることに慣れていないのか、マキウスが少し甘い言葉を囁いただけで、すぐに照れてしまうようだった。

 それで、時期を見極めて、マキウスは自分の気持ちを伝えようと思っていたのだがーー。
 
「女という生き物はですね。大丈夫とわかっていても、時折不安になるのです。
 自分は愛されていないんじゃないか。自分はここにいてもいいのか……と」

 姉にもそんな経験があるのだろうか。
 指先でカップの淵をなぞるヴィオーラを、マキウスは心配そうに見つめてしまう。

「女から聞く者もいますが、私と話した限りモニカさんはそのような人には見えません。
 ニコラさんがいるからかもしれませんが、モニカさんは見た目に反して、ずっと大人な気がします。……私たちより若いのに」
「そうですね」

 ヴィオーラに言われてから気づいたが、マキウスはモニカの年齢は知っているが、今のモニカの本当の年齢は知らなかった。
 たまにモニカと話していると、姉のヴィオーラやアマンテ、ペルラと話している時の様に、どこか諭されるような気持ちになる。

 女性に年齢を聞くのは失礼に当たるが、機会があれば聞いてみようか。
 もしかしたら、実際の「モニカ」より歳下かもしれないしーーその逆かもしれない。

「貴方に結婚するように命じたのは、一番は貴方の行き遅れを心配してのことでしたが……。
 それよりも、もっと重要だったのが、地方騎士から王都の小隊の副官という急な昇進で起こるであろう、他の貴族達からの反発を抑える為。
 特に母の生家であるロードデンドロン家からの反発を抑えるのが目的でした」
 
 地方の騎士団から王都の騎士団に行くには、功績の積み重ねが必要になる。
 マキウスのように、騎士団に所属して、騎士に叙任されてから、数年で引き抜かれるのは珍しい。
 爵位が上がるか、王都に関係する大きな功績を挙げたのなら別だが。
 
 だが、それがただの昇進ではなく、「条件」付きの昇進なら話は別である。
 その「条件の内容」は、その都度、人によって変わるが、共通しているのが、「国にとって功績となる内容」であった。

 マキウスにとっての「条件」が、国の為に政略結婚をすることーーガランツスの「花嫁」を妻として迎え入れることであった。

 ヴィオーラは、マキウスが「花嫁」を迎え入れることを条件に、どうにか王都の騎士団に引き抜けないかと、騎士団と国に嘆願したらしい。