「私は貴方と昔の様な関係を取り戻したい。子供の頃のような。身分や立場の関係なく。……ただの姉弟でいたいのです」
「私もです」

 間髪入れずに続けたマキウスに、話しを続けていたヴィオーラは虚をつかれたようだった。

「マキウス?」

 顔を上げたマキウスは、自分とそっくりな姉を見つめて言ったのだった。

「私は母が亡くなり、祖父母の元に戻ってからも、地方の騎士団に所属してからも、姉上やアマンテたちと過ごした日々を懐かしく思っていました。
 けれども、姉上からは一向に便りがありませんでした。……もう、私のことは嫌いになったのだと、男爵の身である私には関わりたくないのだと思っていました」
「それは、母に監視されていたからで……!」
「ええ。存じております。時折届いていたペルラやアマンテたちの便りに書かれていました」
「そうだったんですか……?」

 キラキラと輝く紫色の目を見開くヴィオーラに、マキウスは頷いた。

「ですが、姉上から王都の騎士団に推薦された時は嬉しかったです。
 ただ、実際に会えたものの、何を話せばいいのか、そもそも身分や階級が違う身でありながら、声をかけていいのか、わかりませんでした」

 マキウスが親しげに話すことで、大切な姉であるヴィオーラに不利益が生じるかもしれない。
 それが、一番怖かった。

「そんな私に出来ることといえば、少しでも姉上の負担を減らすことでした。仕事であれ、私生活であれ。
 姉上が忙しい身であることは知っていました。……心配もしていました」

 マキウスが所属する小隊の隊長として、女性士官として、ブーゲンビリア侯爵家の当主として、ヴィオーラは常に忙しそうであった。
 声こそは掛けられなかったが、マキウスは陰ながら心配していたのだった。

「許されるならば、私も姉上と昔の様な関係を取り戻したいです。ただの姉弟としての」
「マキウス……!」

 ヴィオーラは立ち上がると、マキウスの頭をワシャワシャと撫でたのだった。

「あ、姉上! 止めて下さい!」
「マキウス、お前という子は……!」

 言葉では嫌がりつつも、マキウスはヴィオーラに撫でられるままになっていた。
 ヴィオーラはひとしきりマキウスを撫でると、ほっと息をついて座ったのだった。

「それにしても、マキウスが素直になるなんて珍しいこともあるものです。
 打ち解けるには、もっと時間が掛かるかと思っていました」
「それは、モニカのおかげです」

 マキウスは乱れた髪を整えながら、姉の疑問に答える。

「モニカさんの?」
「ええ。モニカに言われたんです。きちんと話すように、と」

 ヴィオーラは何に驚いたのか、瞬きを繰り返す。
 そうして、意味ありげに微笑んだのだった。

「マキウス、モニカさんのことは好きですか?」