「ニコラ!?」

 いつの間にか、ニコラの口の周りは濡れてベタベタしていたのだった。

「あらあら」
「やれやれ」

 ヴィオーラがクスリと笑う中、父親のマキウスに口の周りを拭いてもらうと、ニコラは喜んだのだった。

「もう……。そろそろ離乳食を始めてもいい時期なのかな」
「そうなのですか?」

 不思議そうな顔をしたマキウスに、モニカは頷く。

「はい。赤ちゃんが離乳食を始める時期の見極め方の一つに、食べている人をじっと見て、ヨダレを垂らすというものがありました。
 食べ物に興味を持っているという証らしいです」
「そうなんですね。私も初めて知りました」

 ヴィオーラにも感心されて、何故だか照れ臭い気持ちになった。

「ええ、そうなんです。それになんだか、ニコラが妙に温かいような……?」
「モニカ様、失礼しますね」

 アマンテがそっとニコラに近づいてニコラに触れた。
 抱き上げて、身体をよく確認して、そして、お尻を触ると「ああ」と得心したようだった。

「一度、ニコラ様を連れて退出しますね。お召し物を替えてきます」
「じゃあ、私も」
「モニカ!?」
 
 モニカが席を立つと、マキウスも席を立とうとしたのだった。

「ヴィオーラ様、マキウス様とゆっくり話して下さい」
「お気遣いありがとうございます」
「モ、モニカ……! どうして貴女まで退出するんですか……!?」

 そうして、モニカは狼狽するマキウスに近づくと、ヴィオーラに聞かれないようにそっと呟いた。

「ちゃんと話して下さいね。あと、お姉さんって呼んで下さいね」
「そ、それは……」
「大丈夫です。マキウス様なら出来るって信じています。では、失礼します」

 言葉に詰まったマキウスから離れると、モニカは改めてヴィオーラに挨拶をして、アマンテとアマンテが抱くニコラに続いて部屋を出る。

(頑張れ! マキウス様!)

 心の中でマキウスを応援しながら、モニカはそっと応接間の扉を閉めたのだった。