「赤子はこんなに温かいのですね。私は赤子を抱いたことが無いのです」
「そうなんですか?」
「ええ。身近にいた子供といえば、乳母だったペルラの娘のアマンテとアガタですが、私とアマンテは同い歳で、アガタはヴィオーラより一つ歳下。マキウスは更にその下になります。
 マキウスが産まれた時は、私はまだ二歳でほとんど記憶にないのです。
 お母様もマキウスのお母様を嫌っていたので、なかなか会いに行けなかったので……」
「ペルラさんが乳母だったってことは、もしかして、アマンテさんたちとヴィオーラ様たちって、乳兄弟だったりしますか?」
「そうです。私とマキウスのお母様のお乳の出が良くなかったので、私たち姉弟はペルラのお乳を飲んで育ちました。
 丁度、私が産まれた時も、マキウスが産まれた時も、ペルラのお乳が出ていたので」

 四人が子供の頃はよく遊んでおり、実の姉弟のように仲良しだったという話は、マキウスからも聞いていた。
 それも、四人が乳兄弟だったのなら、ますます納得がいったのだった。

「私たち四人はいつも一緒にいました。
 私がマキウスを連れて来て、アガタがアマンテを呼んで来て」
「そうだったんですね」

 ヴィオーラからニコラを受け取ったモニカは、膝の上にニコラを座らせた。
 最近は首がしっかりしてきたのか、後ろから支えると、ニコラも座れるようになってきた。
 ヴィオーラは紅茶に大量のミルクを入れると、優雅にカップを持ち上げて口をつけた。

「マキウスから見たら、姉が三人いたように思えたでしょう。
 特にマキウスはアガタに振り回されていましたから」
「私を一番振り回していたのは、貴女でしょう」

 部屋に入って来ながら答えたのは、マキウスだった。
 
「マキウス様」
「マキウス」

 マキウスは呆れた顔をしながら、モニカたちの元にやって来る。

「全く……。モニカに呼ばれたから来てみれば、人の話で盛り上がっていたんですね」

 マキウスはモニカの隣に座ると、不機嫌そうな顔でヴィオーラを見つめる。
 アマンテが淹れてくれた紅茶を澄ました顔で一口飲み、大量の角砂糖を入れていた。
 相変わらずのマキウスの態度に、ヴィオーラは「全く」とため息を吐いたのだった。

 険悪な雰囲気になりかけたのを察したモニカは、「それにしても」と二人を眺めながら口を開く。

「こうして並ぶと、おふたり共、とてもそっくりです。さすが姉弟ですね!」

 たまたま、マキウスもヴィオーラと似たような服装だったからモニカは言ったのだが、その言葉に二人は衝撃を受けたようだった。

「なっ!?」
「それは……」

 驚愕する姉弟に構わず、モニカは他にも気づいたことを話す。

「そうですよ。見た目だけじゃなくて、話し方や歩き方、好みまでそっくりです!」

 マキウスの自信に満ちた威風堂々たる話し方やしっかり背筋を伸ばして歩く姿は、姉のヴィオーラとそっくりであった。
 今も二人揃って、紅茶を飲む時は最初の一口だけストレートで飲み、それから、ヴィオーラはミルク、マキウスは砂糖を大量に入れて飲んでいたのだった。

「そう見えますか? モニカ」
「そうですよ! ねぇ、ニコラ?」

 膝の上で静かにしているニコラを見下ろすと、モニカはギョッとしたのだった。