「私の母が亡くなった後、私はマキウスを王都に呼び戻しました。昔の仲を取り戻したくて……。
けれども、その時のマキウスは断固としてそれを拒否したんです」
「拒否ですか、どうしてまた……」
「理由はわかりません。それならばと、私の副官を務めていた女性騎士が出産と育児の為に長い休暇を取る際に、代理の副官として指名したのです。騎士団を通した指示ならば、マキウスも言うことを聞かざるを得ないだろうと。ですがーー」
そこで、ヴィオーラは大きなため息をついたのだった。
「再会したマキウスは、昔とは別人になっていたのです」
ヴィオーラによると、マキウスは母親が亡くなった後、地方にあった母親の生家であるハージェント男爵家に帰された。
それは、マキウスを疎んでいたヴィオーラの母親によるものらしい。
ヴィオーラは何度かマキウスと連絡を取ろうとしたが、母親がつけた使用人の監視が厳しくて手紙を書くことがさえ出来なかった。
そうして、今から二年程前に、ヴィオーラの母親が亡くなった。
その頃には、ヴィオーラは士官学校を卒業して、騎士団に所属しており、騎士団初の女性士官になっていた。
ヴィオーラは母親の息がかかった使用人を全員解雇すると、地方の騎士団に所属していたマキウスを自分の副官として王都に引き抜いたのだった。
「マキウスは、モニカさんと結婚したのは国からの命令だと思っているかもしれません。
ですが、そうなるように仕向けたのは私なんです」
「ヴィオーラ様がですか?」
「ええ。そのまま引き抜くと、マキウスを良く思わない騎士たちや、一部の貴族ーー主に私のお母様の生家であるロードデンドロン公爵家から、不満の声が上がるかもしれない。
そうならない為に、マキウスには条件を出したのです」
騎士団でのマキウスの立場を考えたヴィオーラは、騎士団と国を通して、マキウスにガランツスからやってくる「花嫁」ーーモニカを妻として娶るように条件を出した。
そうして、ヴィオーラはマキウスと再会したのだったがーー。
「勿論、ただモニカさんを利用した訳ではありません。マキウスに結婚を勧めたのは、姉としての老婆心もあります。仕事ばかりで、弟が婚期を逃すことを心配して」
「わかります! 実の弟妹が結婚しないでいると、姉は不安ですし、お節介も焼きたくなりますよね!」
モニカは御國だった頃を思い出していた。
御國にはすぐ下に弟妹が居たのだが、どちらも遊んでばかりいて、弟妹の将来を不安に思っていたものだった。
死んでモニカとなった今はもう会うことは叶わないが、元気に過ごしていることを願っていた。
「そうです! それに、私が不甲斐ないばかりに、マキウスには幼少期に辛い思いをさせてしまいました」
おそらく、ヴィオーラとマキウスの母親同士の確執のことを指しているのだろう。
項垂れるヴィオーラに向かって、モニカは首を振ったのだった。
「それは違うと思います。ヴィオーラ様もその時は子供だったんですよね? それならその時に出来たことは限られていたと思います」
「そうでしょうか……?」
「そうですよ! それに、マキウス様も昔のように――子供の頃の関係に戻りたいと願っていました」
あの日、大天使像の前で、お互いに身分や立場を気にしなくていいのなら、ヴィオーラと昔の様な関係を取り戻したいかと尋ねた時、マキウスは確かに「願わくは」と答えていた。
それは、マキウス自身も他ならぬヴィオーラとの関係を修復したいと思っているのではないだろうか。
ヴィオーラは顔を上げると、マキウスと同じ色の瞳でじっとモニカを見つめたのだった。
「マキウス自身もそれを望んでくれているのなら嬉しい限りです。
互いに大人になり、それぞれ異なる身分の家督を継ぎ、階級も異なる身ではありますが、私にとってマキウスは血を分けた弟です。
お父様を亡くし、互いにお母様を亡くした今となっては、唯一無二の家族でもありますからね」
ヴィオーラのため息が、そっと溢れたのだった。
けれども、その時のマキウスは断固としてそれを拒否したんです」
「拒否ですか、どうしてまた……」
「理由はわかりません。それならばと、私の副官を務めていた女性騎士が出産と育児の為に長い休暇を取る際に、代理の副官として指名したのです。騎士団を通した指示ならば、マキウスも言うことを聞かざるを得ないだろうと。ですがーー」
そこで、ヴィオーラは大きなため息をついたのだった。
「再会したマキウスは、昔とは別人になっていたのです」
ヴィオーラによると、マキウスは母親が亡くなった後、地方にあった母親の生家であるハージェント男爵家に帰された。
それは、マキウスを疎んでいたヴィオーラの母親によるものらしい。
ヴィオーラは何度かマキウスと連絡を取ろうとしたが、母親がつけた使用人の監視が厳しくて手紙を書くことがさえ出来なかった。
そうして、今から二年程前に、ヴィオーラの母親が亡くなった。
その頃には、ヴィオーラは士官学校を卒業して、騎士団に所属しており、騎士団初の女性士官になっていた。
ヴィオーラは母親の息がかかった使用人を全員解雇すると、地方の騎士団に所属していたマキウスを自分の副官として王都に引き抜いたのだった。
「マキウスは、モニカさんと結婚したのは国からの命令だと思っているかもしれません。
ですが、そうなるように仕向けたのは私なんです」
「ヴィオーラ様がですか?」
「ええ。そのまま引き抜くと、マキウスを良く思わない騎士たちや、一部の貴族ーー主に私のお母様の生家であるロードデンドロン公爵家から、不満の声が上がるかもしれない。
そうならない為に、マキウスには条件を出したのです」
騎士団でのマキウスの立場を考えたヴィオーラは、騎士団と国を通して、マキウスにガランツスからやってくる「花嫁」ーーモニカを妻として娶るように条件を出した。
そうして、ヴィオーラはマキウスと再会したのだったがーー。
「勿論、ただモニカさんを利用した訳ではありません。マキウスに結婚を勧めたのは、姉としての老婆心もあります。仕事ばかりで、弟が婚期を逃すことを心配して」
「わかります! 実の弟妹が結婚しないでいると、姉は不安ですし、お節介も焼きたくなりますよね!」
モニカは御國だった頃を思い出していた。
御國にはすぐ下に弟妹が居たのだが、どちらも遊んでばかりいて、弟妹の将来を不安に思っていたものだった。
死んでモニカとなった今はもう会うことは叶わないが、元気に過ごしていることを願っていた。
「そうです! それに、私が不甲斐ないばかりに、マキウスには幼少期に辛い思いをさせてしまいました」
おそらく、ヴィオーラとマキウスの母親同士の確執のことを指しているのだろう。
項垂れるヴィオーラに向かって、モニカは首を振ったのだった。
「それは違うと思います。ヴィオーラ様もその時は子供だったんですよね? それならその時に出来たことは限られていたと思います」
「そうでしょうか……?」
「そうですよ! それに、マキウス様も昔のように――子供の頃の関係に戻りたいと願っていました」
あの日、大天使像の前で、お互いに身分や立場を気にしなくていいのなら、ヴィオーラと昔の様な関係を取り戻したいかと尋ねた時、マキウスは確かに「願わくは」と答えていた。
それは、マキウス自身も他ならぬヴィオーラとの関係を修復したいと思っているのではないだろうか。
ヴィオーラは顔を上げると、マキウスと同じ色の瞳でじっとモニカを見つめたのだった。
「マキウス自身もそれを望んでくれているのなら嬉しい限りです。
互いに大人になり、それぞれ異なる身分の家督を継ぎ、階級も異なる身ではありますが、私にとってマキウスは血を分けた弟です。
お父様を亡くし、互いにお母様を亡くした今となっては、唯一無二の家族でもありますからね」
ヴィオーラのため息が、そっと溢れたのだった。