「私はマキウス様の傍に居ます。傍に居たいんです。私はマキウス様のことが……!」

 勢いのままに話していたモニカだったが、ハッとして言葉を飲み込んだのだった。

(私、何を言うつもりだったの……!?)

 まさか、マキウスに大切に想われている『モニカ』に嫉妬したのだろうか。

(違う。マキウス様が『モニカ』さんを大切に想っているのは、生まれ故郷を離れて、一人でこの国にやって来たからであって。
 国との政略結婚とはいえ、夫婦となったからで……)

 すうっと息を吸い込んで、両手で胸を押さえると、興奮している心を落ち着かせた。
 胸の中に広がっていた苦味を伴った黒いものは、やがて静かに消え去ったのだった。

「私には、ここしか居場所が無いんです。だから、ここに居ます……」

 マキウスは両眉を上げた。
 何か言おうと口を何度も開いていたが、言葉にならないようだった。
 その代わりに、椅子を倒して立ち上がると、モニカを抱きしめたのだった。

「わかっています」
「マキウス様……」
「わかっています。でも、今は何も言わず、ただ私の腕の中に居て下さい。……貴女を感じていたいんです」

 強く抱きしめてくるマキウスの身体に、モニカは身を埋めた。
 夫となったマキウスの身体からは、草原に似た爽やかな香りがしてきたのだった。
 
 それからしばらく抱き合っていた二人だったが、マキウスがそっと身体を離してきた。
 マキウスの身体が離れていくのを、どこか寂しく感じていることに、モニカは内心で驚いていた。

「モニカ、今日はもう休みましょう。魔法石は後ほど用意します」

 マキウスが伸ばした手がモニカの顔に近づいてくると、やがて頬に触れた。
 目を瞑って、身を強張らせていたモニカだったが、頬に触れたマキウスの手に気づくと、自らの手を重ねたのだった。

(男の人の手って、こんなに温かいんだ……)

 マキウスの手は大きくて、皮が厚くて、温かかった。
『モニカ』にならなければ、この温かさを知らないままだった。
 御國のままだったら、きっと知ることはなかっただろう。
 その熱は、モニカの身体中を温かくして、やがて胸の中を満たしたのだった。