「何を心配されているんですか?」
「モニカ……」
「私で力になれることはありますか?」

 アメシストの様な目を見開いて、モニカを見つめていたマキウスだったが、やがて遠くに視線を移した。
 
「……私は、今度こそ貴女を失いたくないんです」
「えっ……?」
「モニカが……。『モニカ』が階段から落ちた時、辺りには砕けた魔法石が散らばっていました」
「砕けた魔法石ですか?」
「魔法石が砕けることは滅多にありません。
 もし砕けることがあるとすれば、魔法石自体の寿命がきた時か、持ち主が魔法石の容量を超えた願いをした時だけです。
 私が『モニカ』に渡した魔法石は、まだまだ新しい石でした」

 マキウスの話が本当なら、魔法石の寿命がきた訳ではないだろう。
 そうすると、砕けた理由は一つしか思い当たらなかった。
 
「『モニカ』さんが、魔法石の容量を越えてしまうような、強い願い事をしたということですか?」
「『モニカ』が階段から落ちた原因が、魔法石にあるとは限りません。
 あの時、何故、『モニカ』が階段から落ちたのか、そして魔法石に何を願ったのか、どちらも未だにわからないままですから」

 マキウスはモニカが重ねている手を、ぎゅっと握りしめた。

「ただ、魔法石が砕ける程の何かを『モニカ』が願ったことは確かです」
「マキウス様……」
「私はそれを知りたいと思う反面、知りたくないとも思っています。それを知ってしまうのが怖い。そしてーー」

 モニカに向き合った、マキウスは痛みを我慢する様に、端正な顔を歪めたのだった。

「魔法石を与えたら、今度こそ、モニカが遠くに行ってしまうような、そんな気がするんです」

 マキウスの紫色の瞳は、悲痛で溢れていた。
 今にも泣きそうな、深い悲しみの色に染まっていたのだった。

「マキウス様」

 モニカは静かに微笑んだ。

「今のモニカ()も、そう見えますか?」
 
 繋いでいたマキウスの手がビクリと震えた。

「私は、どこにも行きません。『モニカ』として生きることを決めたんです。マキウス様とニコラを置いて、どこにも行きません」

 モニカは深く頷くと、笑みを浮かべる。

「マキウス様が恐れているのもわかります。『モニカ』を大切に想っているんですね」

 マキウスは目を見開いた。
 そして、その顔はみるみる内に赤く染まっていったのだった。

「そうかもしれません……。貴女に言われるまで、自分でも全く気づきませんでした」

 もしかしたら、『モニカ』はマキウスとの結婚を望んでいなかったのかもしれない。
 けれども、こんなに大切に想われている『モニカ』を、モニカ(御國)は羨ましくも思う。

(『モニカ』さんが羨ましい。誰かに……マキウス様に、こんなにも大切に想ってもらえて)

 そう考えると、急に胸が苦しくなった。
 胸の中に何か苦くて黒いものが広がっていき、身体が重くなった。
 それを振り払うように立ち上がると、マキウスと繋いでいた手をそっと離したのだった。
 
 急に立ち上がったからだろうか。
 マキウスは戸惑うように、モニカをじっと見つめていたのだった。