「詳しいことは判明していませんが、どうもガランツスに住むユマン族の中には、祖先にカーネ族の血を引く者がいるらしいですね。
 そういった者たちが、『花嫁』として我が国にやって来て、我が国のカーネ族との間に子供を産む。
 そうやって生まれた子供の大半が、強い魔力を持っているそうです」
「カーネ族って、この国が出来た時に、みんな移り住んだんじゃないんですか?」
「皆ではないんです。国の建国に反対したカーネ族は、この国に移り住むことなく去って行きました。そういった者たちが、ユマン族と交わったのかもしれません。
 その者たちは、国の建国に関わっていないので、魔法を使えるだけの魔力を有していたでしょうし」
「つまり、国の建国に反対したカーネ族を祖先に持つユマン族の『花嫁』と、この国のカーネ族との間に産まれた人が、強い魔力を持っているということですよね。先祖返りのように……」
「そうなりますね。実際に、王宮に所属している宮廷魔法使いの大半が、そういった者のようです」
 
 魔法が使える者は、王族直属の宮廷魔法使いとして、国から重宝される。
 宮廷魔法使いは、主に国の中心部にある大天使像の管理を命じられる。
 国を運営する大きな役割を担っているとのことで、宮廷魔法使いは名誉職とも言われていた。

 その宮廷魔法使いが、近年、増加の一途を辿っていた。
 王宮魔法使いを調べたところ、近年、王宮魔法使いとなった者の殆どが、自分の親や祖先にユマン族がいる者たちーー「花嫁」を迎え入れた家の者たちだった。

 ユマン族の血を引く者たちが、何故生まれながらに高い魔力を持つのかはわからない。
 本来ならユマン族は魔力を持たないはずであった。魔力が薄まるならまだしも、濃くなるなどありえなかった。
しかし何故かカーネ族の血しか引かない王宮魔法使いの魔力よりも、ユマン族の血が入った王宮魔法使いの魔力の方が高い場合が多かった。

 おそらく、国の建国に反対したカーネ族人の血を引いた者が、カーネ族人と交わったことで、産まれてきた子供が先祖返りしたのではないかと言われているが、実際のところはよくわかっていなかった。

 その謎については、今でも宮廷魔法使いたちの間で、調査を続けているとのことだった。
 
「じゃあ、もしかしたらニコラも?」

 モニカが顔を輝かせると、マキウスは頷いた。

「まだ調べてはいませんが、もしかしたら」

 この国では、生まれた子供は必ず魔力値の検査を行う。
 魔力値が高い子供は、宮廷魔法使いとしての教育を受けられるからであった。
 反対に、魔力値が低い子供は、生まれながらに魔法石を与えられるらしい。

 ただ、ニコラの場合は、生まれた時の状況が普通とは違ったので、まだ検査をしていないとのことだった。

「その検査の結果次第では、ニコラの今後の教育が変わってくる可能性があるんですね」
「そうですね……。出来ることなら、ニコラには普通に成長して欲しいものです。
 魔力や魔法など関係ない。ただ、一人の女性として」
 
 生まれた時に魔力が高くても、成長の過程で魔力が低くなってしまうことがあるらしい。
 そうなった子供は、宮廷魔法使いの道から外れ、普通の教育を受けることになるが、決して幸せではない。
「宮廷魔法使いになれなかった出来損ない」と、周囲から詰られ、他の子供よりも辛い人生を送ることになるらしい。

 その話を教えてくれたマキウスは、そんな国の勝手な都合で振り回される子供に、愛娘の姿を重ねたのだろう。
 不安そうな顔をするマキウスを安心させる為に、モニカは微笑んだのだった。

「そうならないように、私たちがしっかりしましょう。
 それよりも、ニコラがどんな風に成長するのか楽しみですね」
「……ええ、そうですね」

 マキウスの歯切れの悪い返事に、モニカは首を傾げた。
 
「マキウス様……? 他に何か心配ごとがありますか?」

 モニカの言葉に、マキウスは驚いた顔をしたのだった。

「そんな顔をしていましたか?」
「はい。眉間に皺が寄っていますし、それに……。何だかぼんやりされていて」

 モニカの言葉に、マキウスは眉間を指で揉んでいた。
 どうやら、マキウス自身も気づいていなかったらしい。
 モニカは立ち上がってマキウスに近づくと、その前に膝をついた。
 そうして、マキウスの手に自分の手を重ねると、下から顔を覗き込んだのだった。