「モニカ、そこで何をしているんですか?」

 その日の夜、湯浴みを済ませたマキウスが部屋にやって来るなり、窓辺にいたモニカは駆け寄ったのだった。

「マキウス様!」

 ニコラは既にアマンテに預けており、部屋にはモニカしかいなかった。
 マキウスが屋敷に帰って来ているのは、帰宅時に玄関で出迎えたので知っているが、ハージェント男爵としてやることが山積みなのだろう。
 そんなマキウスの邪魔をするのも気が引けた。

 そう考えたものの、なかなか部屋に来てくれないマキウスに、モニカはすっかり焦れていた。
 外を眺めて心を落ち着かせていると、ようやく待ち人は来てくれたのだった。

「どうしたんですか!? そんなに慌てて……!」

  モニカは程よく鍛えられた腕を掴むと、マキウスを引っ張って、バルコニーにやって来る。
 外は風が吹いて少し寒かったが、春の夜の様に気持ちのいい清夜であった。

「まさか、ずっと待っていたんですか? 呼んで頂ければ、部屋まで行ったというのに……」

 夫婦にはなったが、マキウスは未だに別々の部屋で夜を過ごしていた。
 これまで通り、夜になるとマキウスがモニカの部屋を訪ねて、その日にあった出来事を軽く話す。
 そうして、夜が更けてくるとマキウスと別れて、この部屋で一人眠っていた。

「ここからだと、騎士団のお城が見えるんですね」

 モニカの視線の先には、白色の魔法の光に照らされた騎士団の本拠地である城と外壁がはっきり見えていた。
 その上の丸い空には、幾千もの星々が浮かび、控え目に三日月も輝いていた。

「そうですね。この部屋から外を眺めたことはほとんどなかったので、私も知りませんでした」
「マキウス様」

 モニカが呼びかけると、マキウスは振り向いた。
 夜空で輝く星々にも負けない端正な顔立ちと、綺麗な紫色の瞳につい見惚れそうになる。
 首を傾げて、「モニカ?」と呼びかける姿まで、絵になっていた。
 そんなマキウスの目を見つめると、口を開いたのだった。

「私も、魔法石が欲しいです」

 この時のモニカは、マキウスは「良いですよ」と二つ返事で言ってくれると考えていた。
 けれども、マキウスはハッとしたかと思うと、眉を顰めて、どこか悲しい顔をしたのだった。

「駄目ですか? 魔法石が無いと、この屋敷内も自由に歩けなくて……」

 マキウスの痛みを我慢するような、どこか悲しい顔に、モニカは両手を強く握ると俯いたのだった。

(何か傷つけるようなことを言ったのかな……)

 実は魔法石は滅多なことでは貰える物ではないのかもしれない。
 もしくは、モニカに悪影響を与えるような何かがあるのかーー。

 そう考えて、モニカが不安になった時だった。
 マキウスはただ、「わかりました」とだけ答えたのだった。

「ところで、魔力と魔法、そして魔法石が何か知っていますか?」

 モニカが首を振ると、マキウスは教えてくれたのだった。