穏やかに眠る赤ちゃんの顔を見ていた御國は、ふいにポツリと呟く。
「ニコラ」
良かったと、安心したところで、御國は我に返ったのだった。
(どうして、私は赤ちゃんの抱き方や授乳の仕方を知っているの……? そもそも、どうして母乳が出るの……?)
御國は赤子を産んだことも無ければ、男性とお付き合いをしたことも――性行為さえしたことさえなかった。
それなのに、どうして一連の授乳が出来るんだろう。
(それに今、ニコラって呟かなかった……? ニコラってこの子の名前?)
先程、御國が無意識に呟いた「ニコラ」。
それがこの赤ちゃんの名前だとしたら、どうして自分は知っているんだろう。
(それにこの部屋……。私は階段から落ちて死んだはずじゃ)
赤子――ニコラが眠ったことで、ようやく落ち着いて部屋の中を観察出来た。
女性らしさが溢れた室内には、御國が寝かされていたベッドと、沢山の化粧品が置かれた鏡台、本棚、ニコラのベビーベッドがあった。
どれも高級品だと一目でわかるような豪華な造りをしているが、鏡台の足元や本棚には細かい傷が沢山ついていた。
そうして、ベビーベッドの近くには大きな窓とバルコニーがあったのだった。
御國はニコラを抱いたまま、恐る恐る窓に近づいていく。
窓ガラスに近づくと、外には丸い形の青空が広がっていた。
「空が丸い……? ここはどこかの建物の中なのかな……?」
まるで、ドームの様な形をした空を見上げていると、窓ガラスに人が映っていた。
そこに映っていたのは――。
「誰なの? この人……」
ガラスに映っていたのは、腰近くまでの長さのあるストレートの金髪と深い海の様な青い瞳を丸く見開いた、御國よりも若い二十代前半くらいの女性であった。
わずかに少女らしさを残した女性らしい丸い顔立ちは、御國よりもずっと愛らしく可憐であり、ほんのり赤く色付いた白い頬と艶やかな唇、小さな鼻が女性の可愛らしさを引き立てていた。
御國がそっと微笑むとガラスの中の女性も同じ様にぎこちなく笑った。どこか引き攣った笑みながらも、少し微笑んだだけで柔和な顔立ちがますます柔らかくなるのも魅力的だった。何をしても絵になるのは、まるでテレビの中の人気アイドルと同じだと思った。
そんなアイドルの様に万人に愛されるような可愛らしさを持った女性の腕の中には、女性と同じ色の髪をした赤子――ニコラがいた。
御國が手を伸ばしてガラスに触れると、ガラスに映っている金髪の女性も御國に向かって手を出してきたのだった。
手を伸ばしてガラスに触れると、同じようにガラスに映っている女性も、御國に向かって手を伸ばしてきた。
「もしかして、私なの?」
御國と同じように、窓ガラスに写った女性も同じように口を動かしたのだった。
その時、扉が控え目に叩かれた。
「失礼します。遅くなって申し訳ありません。ニコラ様」
扉を開けながら入ってきたのは、若い女性だった。
女性は襟が白い黒のワンピースドレスの上に、白いフリルのエプロンドレスを着て、茶色の革のロングブーツを履いていた。
御國は行ったことはないので、実際に見たわけではないが、例えるなら、メイド喫茶で働いているような、メイドのような格好であった。
肩ぐらいまである赤茶色の髪をニ本の三つ編みにして、白いメイドキャップを付けた頭からは、犬の様な茶色の小さな耳が生えていたのだった。
メイドは御國の姿を見ると、犬の様な耳を揺らしてギョッとした。
「あ……あ……」
「あ、あの……。これは、その……」
「知らせなければ……! 誰か、モニカ様が目を覚まされました!」
言葉を失っていたメイドだったが、急に叫んだかと思うと、御國が説明する前に、部屋から駆け出して行った。
メイドが去った室内には、女性の叫び声に驚いたニコラがまた泣き出す声だけが、虚しく響いていたのだった。
「ニコラ」
良かったと、安心したところで、御國は我に返ったのだった。
(どうして、私は赤ちゃんの抱き方や授乳の仕方を知っているの……? そもそも、どうして母乳が出るの……?)
御國は赤子を産んだことも無ければ、男性とお付き合いをしたことも――性行為さえしたことさえなかった。
それなのに、どうして一連の授乳が出来るんだろう。
(それに今、ニコラって呟かなかった……? ニコラってこの子の名前?)
先程、御國が無意識に呟いた「ニコラ」。
それがこの赤ちゃんの名前だとしたら、どうして自分は知っているんだろう。
(それにこの部屋……。私は階段から落ちて死んだはずじゃ)
赤子――ニコラが眠ったことで、ようやく落ち着いて部屋の中を観察出来た。
女性らしさが溢れた室内には、御國が寝かされていたベッドと、沢山の化粧品が置かれた鏡台、本棚、ニコラのベビーベッドがあった。
どれも高級品だと一目でわかるような豪華な造りをしているが、鏡台の足元や本棚には細かい傷が沢山ついていた。
そうして、ベビーベッドの近くには大きな窓とバルコニーがあったのだった。
御國はニコラを抱いたまま、恐る恐る窓に近づいていく。
窓ガラスに近づくと、外には丸い形の青空が広がっていた。
「空が丸い……? ここはどこかの建物の中なのかな……?」
まるで、ドームの様な形をした空を見上げていると、窓ガラスに人が映っていた。
そこに映っていたのは――。
「誰なの? この人……」
ガラスに映っていたのは、腰近くまでの長さのあるストレートの金髪と深い海の様な青い瞳を丸く見開いた、御國よりも若い二十代前半くらいの女性であった。
わずかに少女らしさを残した女性らしい丸い顔立ちは、御國よりもずっと愛らしく可憐であり、ほんのり赤く色付いた白い頬と艶やかな唇、小さな鼻が女性の可愛らしさを引き立てていた。
御國がそっと微笑むとガラスの中の女性も同じ様にぎこちなく笑った。どこか引き攣った笑みながらも、少し微笑んだだけで柔和な顔立ちがますます柔らかくなるのも魅力的だった。何をしても絵になるのは、まるでテレビの中の人気アイドルと同じだと思った。
そんなアイドルの様に万人に愛されるような可愛らしさを持った女性の腕の中には、女性と同じ色の髪をした赤子――ニコラがいた。
御國が手を伸ばしてガラスに触れると、ガラスに映っている金髪の女性も御國に向かって手を出してきたのだった。
手を伸ばしてガラスに触れると、同じようにガラスに映っている女性も、御國に向かって手を伸ばしてきた。
「もしかして、私なの?」
御國と同じように、窓ガラスに写った女性も同じように口を動かしたのだった。
その時、扉が控え目に叩かれた。
「失礼します。遅くなって申し訳ありません。ニコラ様」
扉を開けながら入ってきたのは、若い女性だった。
女性は襟が白い黒のワンピースドレスの上に、白いフリルのエプロンドレスを着て、茶色の革のロングブーツを履いていた。
御國は行ったことはないので、実際に見たわけではないが、例えるなら、メイド喫茶で働いているような、メイドのような格好であった。
肩ぐらいまである赤茶色の髪をニ本の三つ編みにして、白いメイドキャップを付けた頭からは、犬の様な茶色の小さな耳が生えていたのだった。
メイドは御國の姿を見ると、犬の様な耳を揺らしてギョッとした。
「あ……あ……」
「あ、あの……。これは、その……」
「知らせなければ……! 誰か、モニカ様が目を覚まされました!」
言葉を失っていたメイドだったが、急に叫んだかと思うと、御國が説明する前に、部屋から駆け出して行った。
メイドが去った室内には、女性の叫び声に驚いたニコラがまた泣き出す声だけが、虚しく響いていたのだった。