「あの……マキウス様?」
ヴィオーラと別れ、城の前で馬車に乗って、騎士団本部を離れたが、マキウスはずっと不機嫌そうな顔で黙ったままだった。
声を掛けて良いのか悪いのか分からず、ずっと黙っていたモニカだったが、やがて心配になって、おずおずと声を掛ける。
すると、ようやくモニカの存在に気づいたというように、マキウスは目を合わせてくれたのだった。
「どうしましたか?」
「先程の方……。ヴィオーラ様が、地方の騎士団にいたマキウス様を、この王都に呼んでくださった方なんですよね?」
「ええ、そうなります」
以前、地方の騎士団に所属していたマキウスを王都の騎士団に引き抜いたのは、今の小隊長だと話していた。
「マキウス様の上司である隊長のヴィオーラ様は、マキウス様のお姉さんだったんですね。驚きました……」
「モニカ」
マキウスはモニカの話を遮ると、馬車の外に視線を移した。
「少し、寄り道をしませんか?」
モニカが頷くと、マキウスは行き先の変更を御者に告げたのだった。
マキウスが御者に指示して辿り着いたのは、王都の中央部近くにある石畳の広場であった。
広い芝生もあるようで、そこでは王都に住む人たちが、各々の好きなことをしていた。
馬車を降りた二人は、広場を端まで歩いて行った。
広場の突き当たりに行くと、そこは人工の海となっており、その前には大きな人型の銅像が建っていた。
広場より少し低くなった場所に建っている銅像の前には、扇状に広がる石畳があり、広場と繋がっている石造りの階段がいくつかあったのだった。
風雨に曝されて劣化の目立つ銅像の背中には、色褪せた大きな羽が生えていた。
長い時間が経っているのか、銅像の顔は窪んでおり、顔は全く判別出来なかった。
「マキウス様、この銅像は?」
風で乱れる金髪を抑えながら、傍らのマキウスに訊ねる。
「これは、この国を作ったとされている大天使の銅像です」
「大天使って、騎士団の壁画に描かれていた?」
「ええ。そうです。この銅像の中には、大きな魔力の炎が燃えていると言われています。その炎が、この国を空に浮かべていると」
「そうなんですね」
銅像の外側からは、魔力の炎を見ることは叶わなかったが、なんとなく銅像からは熱を感じた気がした。
魔力の炎とは、どんなものなのだろうか。
色や臭いが、熱は普通の炎とは違うのだろうか。
そんなことを考えながら、銅像に見惚れていると、不意にマキウスがポツリと呟いたのだった。
「……子供の頃、私と隊長の二人で屋敷を抜け出して、ここまで遊びに来たことがあります」
モニカが隣を振り向くと、マキウスはアメシストの様な目で遠くを見つめたまま、話を続けた。
「懐かしいものです。あの日、この銅像に宿る魔力の炎を入手したいと騒いだ隊長に連れられて、ペルラたちに内緒でここに来ました。
私たちがいなくなったことに気づいたアマンテとアガタが探しに来るまで、私たちはこの銅像に宿っている魔力の炎を見つけようと躍起になりました」
アガタとはアマンテの妹で、今はヴィオーラの屋敷でメイドをしているらしい。
今よりも小さい幼少期のマキウスと、先程会ったヴィオーラの幼少期を想像して、モニカはクスリと笑ったのだった。
「ヴィオーラ様と仲が良いんですね」
「そうかもしれません。
ただ、隊長の母親が私と私の母を嫌っていましたので、表立って親しくすることは叶いませんでした」
そうして、マキウスはヴィオーラとブーゲンビリア侯爵家について話してくれたのだった。
ヴィオーラと別れ、城の前で馬車に乗って、騎士団本部を離れたが、マキウスはずっと不機嫌そうな顔で黙ったままだった。
声を掛けて良いのか悪いのか分からず、ずっと黙っていたモニカだったが、やがて心配になって、おずおずと声を掛ける。
すると、ようやくモニカの存在に気づいたというように、マキウスは目を合わせてくれたのだった。
「どうしましたか?」
「先程の方……。ヴィオーラ様が、地方の騎士団にいたマキウス様を、この王都に呼んでくださった方なんですよね?」
「ええ、そうなります」
以前、地方の騎士団に所属していたマキウスを王都の騎士団に引き抜いたのは、今の小隊長だと話していた。
「マキウス様の上司である隊長のヴィオーラ様は、マキウス様のお姉さんだったんですね。驚きました……」
「モニカ」
マキウスはモニカの話を遮ると、馬車の外に視線を移した。
「少し、寄り道をしませんか?」
モニカが頷くと、マキウスは行き先の変更を御者に告げたのだった。
マキウスが御者に指示して辿り着いたのは、王都の中央部近くにある石畳の広場であった。
広い芝生もあるようで、そこでは王都に住む人たちが、各々の好きなことをしていた。
馬車を降りた二人は、広場を端まで歩いて行った。
広場の突き当たりに行くと、そこは人工の海となっており、その前には大きな人型の銅像が建っていた。
広場より少し低くなった場所に建っている銅像の前には、扇状に広がる石畳があり、広場と繋がっている石造りの階段がいくつかあったのだった。
風雨に曝されて劣化の目立つ銅像の背中には、色褪せた大きな羽が生えていた。
長い時間が経っているのか、銅像の顔は窪んでおり、顔は全く判別出来なかった。
「マキウス様、この銅像は?」
風で乱れる金髪を抑えながら、傍らのマキウスに訊ねる。
「これは、この国を作ったとされている大天使の銅像です」
「大天使って、騎士団の壁画に描かれていた?」
「ええ。そうです。この銅像の中には、大きな魔力の炎が燃えていると言われています。その炎が、この国を空に浮かべていると」
「そうなんですね」
銅像の外側からは、魔力の炎を見ることは叶わなかったが、なんとなく銅像からは熱を感じた気がした。
魔力の炎とは、どんなものなのだろうか。
色や臭いが、熱は普通の炎とは違うのだろうか。
そんなことを考えながら、銅像に見惚れていると、不意にマキウスがポツリと呟いたのだった。
「……子供の頃、私と隊長の二人で屋敷を抜け出して、ここまで遊びに来たことがあります」
モニカが隣を振り向くと、マキウスはアメシストの様な目で遠くを見つめたまま、話を続けた。
「懐かしいものです。あの日、この銅像に宿る魔力の炎を入手したいと騒いだ隊長に連れられて、ペルラたちに内緒でここに来ました。
私たちがいなくなったことに気づいたアマンテとアガタが探しに来るまで、私たちはこの銅像に宿っている魔力の炎を見つけようと躍起になりました」
アガタとはアマンテの妹で、今はヴィオーラの屋敷でメイドをしているらしい。
今よりも小さい幼少期のマキウスと、先程会ったヴィオーラの幼少期を想像して、モニカはクスリと笑ったのだった。
「ヴィオーラ様と仲が良いんですね」
「そうかもしれません。
ただ、隊長の母親が私と私の母を嫌っていましたので、表立って親しくすることは叶いませんでした」
そうして、マキウスはヴィオーラとブーゲンビリア侯爵家について話してくれたのだった。