マキウスに連れられてやって来た騎士団の本拠地である騎士団本部は、王都の中心部にある大きなお城の中にあった。

「騎士団本部は、元々は王族が住んでいた城の一部にあるんです」

 騎士団本部までの道すがら、マキウスが教えてくれた。

 騎士団本部がある城は、元は王族が住んでおり、数百年前に王族が騎士団の為に城を解放したらしい。
 それまでは、騎士団本部は城から少し離れた場所に建っていた。
 非常事態の際に城まで駆けつけるのが大変なことと、当時の騎士団本部の建物が老朽化していたことや騎士団員の増加に伴い、狭くなっていたこともあり、当時の騎士団長が王族に交渉したらしい。
 その結果、城の一部を騎士団が使用する許可を得たそうで、今ではすっかり騎士団の拠点は城の中に移っていた。
 そんな元は王族の居城だったという名残りのように、騎士団本部は古めかしいながらも白く頑丈な石造りの城壁の中に建てられていたのだった。

「今も王族の住まいと騎士団の本部は、同じ城の中にあるんですか?」
「いいえ。王族はあの小さな城に移り住んでいます」

 マキウスが指差した先には、白亜の城よりもひと回り小さな黄色の外壁の城が建っていたのだった。

「なんだか、可愛いお城ですね」
「王族専用の城なんです。元は王族の宝物庫として使われていたのを建て直したそうです。黄色の外壁は目立つようにと聞いています。常に誰かの目に入るように目立たせておけば、非常時に誰かは気づくだろうと」

 やがて、茶色のレンガ造りの門を抜けると、群青色の屋根と白色の石造りの城に近づいて行った。
 城の前に馬車が止まると、モニカはマキウスの手を借りて、馬車から降りたのだった。

「わぁ、間近で見ても大きいですね!」

 例えるなら、童話の『シンデレラ』に出てくるような、大きな城といえばいいのだろうか。
 今にも、舞踏会が開かれて、王子様が出てきそうな雰囲気があった。

「城内は天井が高いんです。王族が使っていた頃の名残りで、場所によっては、この国の歴史を表した天井画や壁画もあります」

 マキウスに連れられて、建物の中を歩いていると、普段、マキウスが着ているのと同じ白の騎士団の制服を着た者たちとすれ違った。
 彼らとすれ違う度に、マキウスは端に寄って頭を下げた。
 意味はよくわからないが、モニカもそれに習ったのだった。

 頭を下げて三回目、二人の前を騎士が通り過ぎると、マキウスは申し訳なさそうな顔をしたのだった。

「すみません。私の身分が低いばかりに、貴女にまで苦労をかけて」
「いいえ、私は気にしていないので」

 どうやら、すれ違った騎士たちは、いずれもマキウスより身分の高い騎士だったらしい。
 それから少し歩くと、急に大きな木製の扉の前で、マキウスが立ち止まった。

「この先が婚姻届の受付部屋となっています」

 マキウスに続いて部屋に入ろうとすると、忙しなく人が行き来しており、話し声も絶えず聞こえていた。
 なんとなく、モニカが入ったら邪魔になりそうな気がした。

「マキウス様、なんだか部屋の中が忙しそうなので、邪魔にならないように、ここで待っていますね」
「そうですか……。私が出してきますので、貴女はこの辺りで待っていて下さい」
「わかりました」

 モニカが頷くと、どこか寂しげなマキウスは部屋の中に入って行ったのだった。

(まるで、童話の中に入ったみたい!)

 マキウスの手前、ジロジロと城内を見渡すわけにはいかなかったので、一人になったことでようやく城内をゆっくり見渡せた。
 古色な石造りの城内、どこまでも高い天井、時折見かけるひびの入った壁や床からは歴史を感じられた。
 そんな風情ある城の中をオシャレなドレスを着て、これから夫となるマキウスと共に歩いていると、まるで童話に登場するお姫様か令嬢の気分になれたのだった。

 物珍しそうに城内を見ていると、右側の通路の先に壁面が描かれているのが見えた。

(何の絵だろう……?)

 モニカはもっとよく見ようと、壁画に近づいたのだった。