八百年近く前、自然に囲まれた人が立ち入らない場所に、とある小さな国があり、そこには、とある種族が密やかに住んでいた。

 住民の誰もが、頭から犬のような耳を生やし、身体能力に優れ、人間には扱えないと言われている不思議な力ーー魔法を使い、その力を生かして他国よりも進んだ技術を持っていた。

 その種族のことを人間たちは「カーネ族」と呼び、カーネ族が住むその国は、「カーネ国」と呼ばれていたのだった。

 カーネ族は穏やかな種族であったが、遥かな昔は、カーネ族が持つ魔法の力を狙う人間たちとの争いを余儀なくされていた。

 やがて、カーネ族は争いを嫌うあまり、人間が立ち入らない場所へと、どんどん国を移していった。
 山の奥の、森の奥深く。

 やがて、姿を見かけなくなったカーネ族を、人間たちは絶滅したと思うようになり、彼らの存在は忘れられていったのだった。

 カーネ族が姿を消して、しばらくしたある時、人間の国で大きな戦争があった。
 複数の国を巻き込んだ戦争は、その国や周辺諸国に住む多くの人間たちの住処を奪った。
 そうして、住処を失った人間たちの多くが、山奥の、森の奥深くへとやって来た。
 そこで見つけた小さな国ーーカーネ国に避難してきたのだった。

 そこで、人間たちはカーネ国と、そこに住むカーネ族の住民たちに驚いた。
 カーネ族は、遥かな昔に、人間たちとの争いの末に、絶滅したと聞いていたからだった。

 カーネ族側も、久しく人間とは会っておらず、もはや国の歴史でしか知らなかった人間たちの存在に大層驚いた。
 カーネ族は、人間たちから事情を聞くと、彼らに同情した。
 そうして、話し合いの末、カーネ族は国に避難してきた人間たちを、受け入れることにしたのだった。

 そんなカーネ国へと避難して来た人間のことを、カーネ国の住民たちは「ユマン族」と呼んで、自分たちと区別したのだった。
 
 けれども、両種族は共存することが叶わなかった。
 ある時からユマン族側は、「自分達はカーネ族より優れた気高い種族だ」と、カーネ族を見下すようになった。

 一方、カーネ族側も「魔法が使える自分たちは、ユマン族よりも崇高な種族だ」とカーネ族に対抗した。

 やがて国内で、ユマン族とカーネ族による内乱が起こった。
 最初こそ、魔法が使えるカーネ族が優勢だったが、ユマン族は人間らしい知恵を持ってカーネ族達を圧倒した。
 
 国は傷つき、田畑は荒れ、野盗が出て、孤児が増えた。
 残されたカーネ族は自分たちの負けを認めると、国をユマン族に譲ることにした。
 住む場所を失ったカーネ族は、自分たちが持つ魔法と技術を元に新しい国を作ることにしたのだった。