「汚くありません。貴女が汚いと思ったことは一度もありません」

 ぴしゃりと言い切ったマキウスは、モニカの頬と額に口づけてくる。
 額にも口づけてくるのは、夕方にヴィオーラが口づけたからだろうか。

 衣摺れの音と共に身体をずらしたマキウスは、またモニカのデコルテに顔を近づけると唇で触れてくる。

「んっ……」

 何度も触れられて、快感を覚える。
 ようやく顔が離れたと思ったら今度は頬に口づけられて、ますます身体中が熱を帯びてくる。
 緊張と興奮で何も考えられなくなってくると、今までどうやって息をしていたのか分からなくなってくる。だんだん息継ぎが難しくなってくる。

「ゆっくり慣れて下さい。誰かに触れられること、誰かの温もりを感じることに」

 息が出来なくて泣きそうになっていたのが顔に出ていたのだろうか。モニカの身体から顔を上げたマキウスは、アメシストの様な紫色の瞳を細める。

「誰にだって、得手不得手があります。無理に慣れようとせずに、これから少しずつ慣れていけばいいんです。それを恥とも、悪いとも思わないで下さい」
「マキウス様……」
「今は慣れることだけを考えて、私を感じて下さい。……願わくは、私を受け入れて下さい。私だけの『天使』」
「はい……」

 マキウスがドレスに手を掛けてボタンを外そうとした時、タイミング悪く、扉を叩く音が聞こえてきた。
 その瞬間、これまでモニカを満たしていた熱は引いていき、マキウスが不快そうに舌打ちをした。

「誰ですか? こんな時に……」

 マキウスがモニカから身体を離したタイミングで、とりあえずモニカは足元にあった掛布を肩から掛けた。
 これなら今まで何をしていたか、傍目にはわからないだろう。

 マキウスが扉を開けると、そこにはティカの姿があったのだった。

「あ……。も、申し訳ありません! この様な時間に……」

 マキウスの剣幕に恐れをなしたのか、それともベッドで身を起こしたモニカから何かを察したのか、及び腰になっていた。

「構いません。何かありましたか?」
「あ……モ、モニカ様の……奥様の、沐浴の用意が整っているのですが、なかなかお姿をお見せにならないので、様子を見てくるようにと、メイド長が……。夫婦だけの時間を過ごされている様なら、明日の朝でもいいとのことでしたが……」
「全く……ペルラにはお見通しということですか……」

 肩から掛布を掛けたまま、モニカはベッドから降りて扉に近いていく。

「ありがとうございます。すぐに行くと伝えて下さい」

 一礼したティカが去って行くと、呆れたようにマキウスは息を吐いた。

「モニカ……」
「続きをしようにも、やっぱり、身体が汚れたままなのが気になるので……」
「気にしていないと言っているんですが……」

 マキウスの呟きを聞きながら、モニカはドレスの乱れを直して、はだけた首元を着直す。
 ニコラに授乳をする都合上、一人でも着られるドレスを身につけていて良かった。
 ドレスを整えると、モニカはマキウスを振り返ったのだった。

「それでは、マキウス様、また後ほど……」
「私も一緒に行きますよ」

 同じく服を整えたマキウスが、当たり前の様について来る姿にモニカはギョッとした。

「え……屋敷内ですし、大丈夫ですよ。ここで待っていて下さい」
「待ちきれません。沐浴が終わるまで、部屋の前で待っています。……行きましょう」
「本当にいいですから! だって恥ずかしいし、待たせると悪いですし……」
「女性を待つのは男の役目です。それに……本当は一緒に入りたいくらいです」
「一緒に!?」

 モニカが素っ頓狂な声を上げると、マキウスはむっとしたようだった。

「私たちは夫婦なのですから、一緒に入ってもおかしくありません」
「でも一緒になんて、そんな……」
「これも慣れが必要ですね。今度一緒に入りましょう。身体の隅々まで洗って差し上げます。あんなところやこんなところまで……」
「い、痛くしないでくださいね……」

 マキウスに腕を引かれて、モニカは沐浴に向かう。心なしかマキウスはモニカの反応を楽しんでいるように見えた。
 そんなマキウスを見たモニカも笑みを浮かべたのであった。