寝室に入ると、いつものようにマキウスが明かりをつけてくれた。
モニカはソファーに座ると、「う、う~ん」と腕を伸ばしたのだった。
その声に、マキウスは心配そうにしかめ面をしたのだった。
「どこか怪我でもされましたか?」
「いいえ、怪我ではないんですが……」
「もしかして、ニコラですか?」
「はい。だんだん、腕が疲れるようになってきて……。良いことではあるんです。ただ、この身体には負担が大きくて……」
「モニカ」の身体は、階段から落ちて寝たきりになっていたからか、それとも元から体力が無いからなのか、あまり力仕事には向いていないようだった。
御國の頃だったら、軽々と持てたであろう重い物が持てず、苦もなく歩けていたであろう屋敷内の移動や階段の昇り降りも、この身体になってからは負担が大きかった。
「そうでしたか……。あまり無理はしないで下さい。もう、貴方だけの身体では無いのです」
「はい。気をつけます。……『私だけの身体では無い』?」
モニカが首を傾げていると、マキウスは意味深に頷いたのだった。
「ニコラの母親としての身体でもあり、私の妻としてのーー愛する女性としての身体でもあるのです。万が一でも、貴女の身に何かあったらと思うと、私は……」
「そんな大したことではありません! これから体力も戻ってくるか、ついてくると思うので……」
マキウスは「それでも」と言って隣に座ると、モニカの腰に腕を回して身体を引き寄せた。
そうして、耳元で囁いてきたのだった。
「あまり無理はしないで下さい。これから先、二人目が授かるかもしれない身体です。私は貴女が母上の様になってしまうのではないかと不安なんです」
「二人目って……!?」
マキウスの視線がモニカの腹部に向いたことで、「二人目」が何を指すかわかったモニカは、耳まで赤面していくのを感じていた。
「そ、それって……」
「私たちはまだまだ若い。その可能性が無いわけではありません。それに、貴族は多産が好ましいのです」
「そうなんですね……」
「そうです。では、魔力を補充しますので、魔法石を貸して頂けますか?」
モニカが魔法石のブレスレットをはめた腕を差し出すと、マキウスは片手で掴んだ。
そうして、マキウスはモニカの手の甲に小さく口づけを落とした後、ブレスレットに触れて、魔力の補充をしてくれたのだった。
「そういえば。このブレスレットのデザインも『天使』でしたね」
マキウスの魔力を受けて、仄かに青色の光を放ちだしたブレスレットを見つめながら、モニカは呟く。
「案外、天使の由来は、異なる世界から来た『花嫁』たちにあるのかもしれません」
この国で、「天使」は「尊い者」や「愛おしい者」という意味があるらしい。
もしかすると異なる世界からやって来た「天使」を誰かがそう思ったことから、この意味が出来たのかもしれない。
「このブレスレットを依頼した時は、まさかモニカが本当に『天使』だとは思いませんでしたが……」
「誰もそうは思わないですよね」
やがて、青色の光は小さくなると、魔法石に吸い込まれるように消えていった。
一時期はこの魔法石と魔力の影響もあって、御國だった頃の嫌な記憶を夢に見て、毎夜モニカは魘されていた。
けれども、最近はマキウスがついているからか、変わった夢は見ないようになったのだった。
「今なら、貴女が『モニカ』になった理由がわかる気がします」
「『モニカ』になった理由ですか? それは何ですか?」
モニカはソファーに座ると、「う、う~ん」と腕を伸ばしたのだった。
その声に、マキウスは心配そうにしかめ面をしたのだった。
「どこか怪我でもされましたか?」
「いいえ、怪我ではないんですが……」
「もしかして、ニコラですか?」
「はい。だんだん、腕が疲れるようになってきて……。良いことではあるんです。ただ、この身体には負担が大きくて……」
「モニカ」の身体は、階段から落ちて寝たきりになっていたからか、それとも元から体力が無いからなのか、あまり力仕事には向いていないようだった。
御國の頃だったら、軽々と持てたであろう重い物が持てず、苦もなく歩けていたであろう屋敷内の移動や階段の昇り降りも、この身体になってからは負担が大きかった。
「そうでしたか……。あまり無理はしないで下さい。もう、貴方だけの身体では無いのです」
「はい。気をつけます。……『私だけの身体では無い』?」
モニカが首を傾げていると、マキウスは意味深に頷いたのだった。
「ニコラの母親としての身体でもあり、私の妻としてのーー愛する女性としての身体でもあるのです。万が一でも、貴女の身に何かあったらと思うと、私は……」
「そんな大したことではありません! これから体力も戻ってくるか、ついてくると思うので……」
マキウスは「それでも」と言って隣に座ると、モニカの腰に腕を回して身体を引き寄せた。
そうして、耳元で囁いてきたのだった。
「あまり無理はしないで下さい。これから先、二人目が授かるかもしれない身体です。私は貴女が母上の様になってしまうのではないかと不安なんです」
「二人目って……!?」
マキウスの視線がモニカの腹部に向いたことで、「二人目」が何を指すかわかったモニカは、耳まで赤面していくのを感じていた。
「そ、それって……」
「私たちはまだまだ若い。その可能性が無いわけではありません。それに、貴族は多産が好ましいのです」
「そうなんですね……」
「そうです。では、魔力を補充しますので、魔法石を貸して頂けますか?」
モニカが魔法石のブレスレットをはめた腕を差し出すと、マキウスは片手で掴んだ。
そうして、マキウスはモニカの手の甲に小さく口づけを落とした後、ブレスレットに触れて、魔力の補充をしてくれたのだった。
「そういえば。このブレスレットのデザインも『天使』でしたね」
マキウスの魔力を受けて、仄かに青色の光を放ちだしたブレスレットを見つめながら、モニカは呟く。
「案外、天使の由来は、異なる世界から来た『花嫁』たちにあるのかもしれません」
この国で、「天使」は「尊い者」や「愛おしい者」という意味があるらしい。
もしかすると異なる世界からやって来た「天使」を誰かがそう思ったことから、この意味が出来たのかもしれない。
「このブレスレットを依頼した時は、まさかモニカが本当に『天使』だとは思いませんでしたが……」
「誰もそうは思わないですよね」
やがて、青色の光は小さくなると、魔法石に吸い込まれるように消えていった。
一時期はこの魔法石と魔力の影響もあって、御國だった頃の嫌な記憶を夢に見て、毎夜モニカは魘されていた。
けれども、最近はマキウスがついているからか、変わった夢は見ないようになったのだった。
「今なら、貴女が『モニカ』になった理由がわかる気がします」
「『モニカ』になった理由ですか? それは何ですか?」