「もう沐浴を済ませたんですか?」
「ええ。ニコラに会いに行ったモニカがなかなか寝室に来ないので、寂しくて迎えに来たところです」

 マキウスにはニコラの授乳が終わったら寝室に向かうと伝えていた。マキウスも沐浴を済ませたら寝室に来ると話していたので、もうしばらく時間が掛かると思っていたのだが……。
 すると、モニカの腕の中で、名前を呼ばれたニコラが、マキウスの方を向いた。
 最近、ニコラが自分の名前に反応するようになり、自分の名前が聞こえてきた方角をじっと見つめるようになってきた。
 これも成長の証らしい。
 
「すみません。遅くなってしまって……」
「いいえ。迎えに来たおかげで、嬉しい言葉を聞けました。でも、せっかくなら、直接言って欲しいものです」
「もう、マキウス様ってば……」

 恥ずかしそうに顔を赤面したモニカを、マキウスは声を上げて笑った。

「私もニコラを抱いてもいいですか?」
「どうぞ」

 モニカに身を寄せる様に隣に座ったマキウスは、モニカからそっとニコラを受け取った。
 ニコラを抱き上げるのがすっかり手慣れたマキウスに、モニカがやることはほとんどなく、せいぜいニコラが何かあった時に手を貸す程度だった。

「すっかり慣れましたね」
「そうですか? 仕事で留守にしがちな私とは違い、ニコラと過ごす時間が多い貴女には敵いません」
「アマンテさんに聞きましたが、貴族の男性というのはあまり子育てに熱心ではないそうです。それに比べれば、マキウス様はとても熱心だと。やっぱり、『モニカ』の件があるからですか?」

 以前、アマンテに聞いたことがあった。貴族の男性というのは、家や仕事で忙しく、子供が生まれても自分の伴侶や雇い入れた乳母に任せっきりにしていて、なかなか会いに来ないものらしい。実際にマキウスとヴィオーラの父親がそうだったと。
 それに比べれば、マキウスはほぼ毎日娘のニコラの様子を見に来て、子育てにも積極的だという。

「最初はそれもありましたが……。今はただニコラが好きだから会いに行っているんです。ニコラには私や姉上の様に、寂しい子供時代を過ごして欲しくないんです。父親が仕事でほとんど会ってくれなかったというような……」
「そうでしたか……」
「それに、ニコラに会いに行けば、私の金の花にも会えますからね」
「金の花って…… 」
「さっきニコラに歌を歌っていましたよね? 廊下まで聞こえていましたよ」
「き、聞いていたんですか……!? 恥ずかしいです……」

 マキウスの腕の中で、ニコラがうるさいという様に顔を歪めて呻いた。
 それを見た二人は、小さく苦笑をしたのだった。

「そろそろ、部屋に戻りましょうか。ニコラも休めないでしょう」

 モニカがニコラをベビーベッドに寝かせている間に、マキウスがアマンテを呼んでくれた。
 アマンテにニコラをお願いすると、二人は部屋を出たのだった。