「マキウスと離れて暮らすようになってからはわかりませんが……。これまでマキウスの周りには、モニカさんの様な『守りたくなる女性』はいなかったと思います。帰宅が遅くなったマキウスを、心配する様な女性も……。私やアマンテ、アガタとは、また違う女性である貴女に、弟は惚れたのかもしれません」
「そ、そうなんでしょうか……?」
「きっとそうです。もっと自信を持って下さい。モニカさんは私の目から見ても、充分、魅力的な女性です」

 ヴィオーラが満面の笑みと共に、両頬に添えていた手を離したので、モニカは自分が赤面していることに気づいてしまう。
 義姉(あね)の端麗な顔を前に、緊張を隠しきれなくなり、何度も口を開いた末に、ようやく言葉が出てくる。

「で、でも、それなら嬉しいです。もっと、マキウス様に相応しい人になれるように頑張りたいです!」
「モニカさん、マキウスはあれでも私の弟です。弟をもっと頼って下さい。どうも、好きな女性の前では、格好をつけて、頼られたいようなので」

 立ち上がったヴィオーラに、モニカは首を傾げた。

「そうなんですか……?」
「そうです! モニカさんと一緒にいる時のマキウスの様子を見ていると、どうもマキウスはモニカさんに頼られたいようで、格好をつけているように見えるので……。私と居る時は、もっと気怠げな姿や、面倒くさがる姿も見せるんですよ」
「気怠げな姿のマキウス様って、なんだか想像も出来ないです」
「そうですか? 今度、気怠げなマキウスの姿を絵に描いておきますね。マキウスほどではありませんが、私も絵には自信があります」
「楽しみにしています」

 二人でクスクスと笑っていると、不意にヴィオーラは真剣な顔になった。
 
「モニカさん」

 ヴィオーラはモニカの顔を覗き込んできた。

「私は弟が頼りになると信じていますが、マキウスはあれでも男です。女性の心の機微には疎いところもあるでしょう。もし、マキウスに相談しづらいことで、困ったり、悩んだりしたら、いつでも私を頼って下さいね」
「お姉様……!」
「寂しい時や悲しい時、辛い時は、いつだって私は貴女の力になります。甘えたくなった時は胸を貸します。泣きたくなった時も……。私は貴女たちの姉です。大切な弟妹たちを抱き留めてみせます。気兼ねなく、私の元に来て下さい」
「今も、いいですか……?」
「……ええ。勿論」

 その言葉と共に、両手を広げたヴィオーラに、モニカは抱きついたのだった。
 
「お姉様……! 私、私……」
「いいのですよ。何も言わなくて。……今まで大変だったでしょう。マキウスしか頼れなくて」

 モニカを抱き留めてくれたヴィオーラは、モニカを抱き返しながら頭を優しく撫でてくれた。
 まるで、母の腕の中にいる時の様な安心感に、モニカの涙腺が緩んでくる。

「はい……。でも、マキウス様が優しくしてくれました」
「私の義妹(いもうと)ながら、随分といじらしいことを言いますね。もしかして、既に周囲に相談しづらい内容で、悩んだことがあったのでしょうか?」
「そうですね……。前に一度だけ……」

 夢の中で、御國だった頃の辛い記憶を見ている時、御國の問題だと考えて、マキウスにも相談出来なくて悩んだことがあった。
 結局、あの時はマキウスの力を借りて解決したが、これからはヴィオーラに相談するという方法もあるかもしれない。

「これからは私も頼って下さい。私も、マキウスやリュド様と同じように、モニカさんを大切に想っています」
「はい……」

 モニカの肩が震えた。もう我慢出来なかった。
 嗚咽を漏らして、泣き出したモニカをヴィオーラは優しく撫で続けてくれたのだった。