「まだ、マキウス殿を許すかどうかは決めていません。だから、もう少しだけ見守らせて下さい。……その上で、決めさせて欲しい」

 リュドヴィックの言葉に、マキウスは頷いた。

「ええ。勿論です。必ずやリュド殿に許しを得られるように、モニカとニコラを幸せにします」

 胸に手を当てて、マキウスは誓った。
 そんなマキウスを、リュドヴィックは眩しそうに目を細めて見つめてきたのだった。

「……本当に妹を大切に想っているんですね」
「私はモニカを愛しているんです。ニコラもモニカと同じくらいに。あの二人を守れるのならば、私は何を捨てても構いません。爵位も、仕事も、財産も、これまで積み重ねてきた何もかも」

 流星群の夜、モニカの過去を聞いた時、マキウスは心に決めた。
 何があっても、二度とモニカを手放さず、生涯をかけて愛すると。

 どんなに強く、美しく、可憐で、頼りになり、マキウスが『モニカ』に対して犯した罪をも受け入れる優しさを持っているモニカも、過去には辛い経験をしていた。
 それを聞いた時は驚いたが、マキウスの為に、その時に負った傷と向き合って、乗り越えようとしていることを知って、更に驚愕した。
 恐怖を感じているはずの異性のマキウスを愛していると告白し、マキウスに愛され、マキウスの隣に立てるような相応しい女性になろうとしている。

 モニカはマキウスの為に成長しようとしている。それなのに、自分は何をしているのか。
 いつまでも、「モニカ」に対して犯した罪を後悔しているだけで、前に進もうとしていない。
 男性は女性をエスコートするものだと、子供の頃に父や姉に言われてきた。
 けれども、今のマキウスは、モニカにエスコートをされているのと同じだった。
 子供の頃、グズグズ泣いていると、姉に手を引かれた。あの頃と何も変わっていないと言えるかもしれない。
 マキウスも前に進まなければならない。いつまでもモニカに遅れをとっている訳にはいかなかった。

 そんなモニカの為に自分が出来るのは、そんな傷だらけのモニカを受け止めて、その気持ちに答えることだった。
 本当は男が怖いモニカを受け入れて、克服しようとしているモニカに手を貸す。
 モニカが一人で出来ないことなら、マキウスが手を貸そう。
 モニカが笑ってくれるなら、自分はどうなっても構わないと思うくらいにーー。

「モニカは、幸せになろうと言ってくれました。幸せは二人で……夫婦二人で作るものだと。愛する女性にそこまで言わせて、男の私が何もしないわけにはいきません」
「マキウス殿……」
「モニカの気持ちに答えられるように、私も力を尽くします。いつまでも、モニカとニコラの笑顔を守れるように……」

 マキウスの脳裏には、愛する妻と娘の笑顔が浮かんでいた。
 二人の笑顔を守りたい。大切な家族を。
 マキウスはそっと微笑んだのだった。