「これからは……、これからは! リュド殿の大切なご家族であるモニカを大切にします。辛い想いをさせないようにします! ですので、どうかモニカを私に託して下さい!」
「マキウス殿……」
「私には……こんな不甲斐ない私ではありますが、私にはモニカが必要なんです! 国や『花嫁』は関係ありません。一人の女性として、私にはモニカが必要なんです。今度こそ、モニカを幸せにします。辛い想いは二度とさせません!」

 マキウスはじっとテーブルを見つめ続けた。
 すると、大きく息をついたリュドヴィックは、「顔を上げて下さい」と静かに告げたのだった。

「リュド殿……?」

 恐る恐る顔を上げると、リュドヴィックは悲痛な顔をして、じっとマキウスを見つめていた。

「……貴族の貴方が、孤児の私に無闇に頭を下げるべきではありません」
「孤児などと……。それ以前に、リュド殿はこの国の英雄でもあります」

 これまでリュドヴィックはレコウユスとガランツスを脅かす犯罪組織の撲滅以外にも、レコウユスの騎士団からの要請に応じて、何度かこの国に協力をしてくれた。犯罪者の捕縛から誘拐事件の捜査、人身売買の実態の調査まで。レコウユスの騎士団では手に負えない案件の解決に協力してくれたのだった。
 リュドヴィックがこの国に滞在し始めてすぐの頃、マキウスはヴィオーラからこの国でのリュドヴィックの活躍について幾つもの話を聞いた。リュドヴィックが国に滞在していた頃、地方の騎士団に居たマキウスとは違い、ずっと王都の騎士団に居たヴィオーラはリュドヴィックの話に詳しく、事件の内容だけではなく、その時のリュドヴィックの様子までつぶさに覚えていたのだった。

「英雄などと、恐れ多い。私は私に出来ることをやっただけです」
「貴方の噂は姉上を通じて聞いています。姉上も感心していました。私も貴方のように屈強な騎士になって、大切な妻と娘を守れるようになりたいです」
「マキウス殿……。私はそのような人間ではありません。ただ必死だっただけです。国や仲間を守らねばならないと」

 そうは言いつつも、リュドヴィックは薄っすらと顔を赤くしていたのだった。

「私は今日のマキウス殿の返答次第では、モニカを連れて、国を出るつもりでした」
「リュド殿……」
「けれども、この屋敷で出迎えてくれたモニカは、嬉しそうにマキウス殿に向かって微笑んでいました。……そんな二人を引き離すことが、酷に思えました」

 そうして、リュドヴィックは息を吐くと小さく微笑んだのだった。

「私はもうしばらく、この国に滞在します。ヴィオーラ殿を通して、滞在の延長を申請しています。近日中に許可が下りるでしょう」

 リュドヴィックの様に、他国からこの国に滞在する際には、あらかじめ滞在を希望する日数を国に申告する必要があった。
 しかし、事情があれば、滞在の延長を希望することも可能であった。
 その際は、滞在中の身元保証人を通して申請をすることになっていた。
 今回、リュドヴィックの場合だと、リュドヴィックの身分保証人はヴィオーラになっているので、ヴィオーラが申請しているのは間違いないだろう。