「……いつか大叔母様が開いていた私塾のように、身分に関係なく学びの機会を与えられて、意見を言い合える日が来ればいいのですが……」
「姉上、身分に関係なくというのは、さすがに難しいのでは……? 国の身分制度を根本的に変える必要があります……」
「いつかの話です。せめて、私も大叔母様のように私塾を開けるくらいの力を持っていれば良かったのですが……」
「お姉様」

 モニカの呼び掛けに、ヴィオーラは端麗な顔を上げる。

「お姉様なら、いつか出来ると思います。その時は私も手伝わせて下さい!」
「ありがとうございます、モニカさん。その時はぜひお願いします」

 小さく息をついたマキウスを振り返ると、仕方がないというように肩を落とした後に小さく微笑んだ。

「妻が手伝うなら、私も手伝いますよ」
「私も力が及ぶかはわからないが、手伝わせて下さい」
「まあ! ありがとうございます。リュド様。リュド様にもお力添えを頂けるのなら心強いです」
「姉上、私は……?」
「マキウスは当然手伝うのです」

 不服そうな顔をしたマキウスに三人が笑うと、ヴィオーラはそっと立ち上がったのだった。

「さて、モニカさんについてわかったところで、私たちはお暇しましょう」
「えっ!? せっかくなので、夕食もご一緒しませんか?」

 モニカの提案を、二人は丁重に断った。

「あまり長居してもご迷惑でしょう。夫婦の時間を邪魔したら」
「そんなこと無いです。ねぇ、マキウス様?」

 モニカの言葉に、マキウスも頷いたが、ヴィオーラは苦笑しただけであった。

「ありがとうございます。でも、それはまた別の機会にお邪魔しますね」

 ヴィオーラは立ち上がると、さっと扉に向かって行った。
 すると、リュドヴィックは「ヴィオーラ殿」と、声を掛けたのだった。

「私はマキウス殿と、少し話をしてから戻ります」

 振り振り返ったヴィオーラは、「わかりました」と、答えると部屋から出て行ったのだった。

「あっ! 待って下さい! お姉様! お見送りさせて下さい!」

 ヴィオーラを追いかける様に、モニカもマキウスとリュドヴィックを置いて、部屋を出たのだった。