「そんな……」
マキウスが話し終わった時、日はすっかり沈んで辺りは暗くなっていた。
話していたマキウスの代わりに、ヴィオーラが自身の魔力で点してくれた明かりに照らされたリュドヴィックは、不快感を表すように眉を顰めていたのだった。
「妹のモニカは死んで、ここにいるのは、モニカの姿形をした別人だというのか……」
「はい。黙っていてごめんなさい……」
モニカが二人に向かって頭を下げると、「いや」とリュドヴィックは首を振ったのだった。
「私の方こそ、取り乱してすまない。一番辛いのは、モニカたちだというのに……」
「そんなことな……。ありません」
モニカは首を振った。
リュドヴィックの妹の「モニカ」じゃないと知られた以上、彼を兄と呼ぶことは許されないだろう。
そう考えて、モニカは兄妹ではなく、妹を喪った騎士と妹の姿形をした他人として、話し出したのだった。
「辛いのは、おにい……。リュドヴィックさんです。大切な妹さんを失ったんです。幸せになって欲しくて、この国に『花嫁』として送り出したのに……」
リュドヴィックは妹の「モニカ」に幸せになって欲しくて、この国に妹を送り出した。
その為に、自分へ与えられるはずだった褒美を、自身ではなく「モニカ」に使ってまで。
「いや。私のことはいいんだ。それなら、貧民街でモニカに会った時に、違和感があったのも納得した。私のことを知らなかったんだな……」
「はい……。でも、『モニカ』さんの記憶が残っていたので、リュドヴィックさんのことは分かりました。さすがに、リュドヴィックさんとの思い出を全ては覚えていませんが……」
「モニカ……いや、モニカの中にいる貴女」
リュドヴィックの言葉に、モニカが顔を上げると、悲痛を含んだリュドヴィックの青い瞳と目が合う。
「一つだけ教えて欲しい。モニカは幸せだったのか……。妹は『花嫁』としてこの国に来て本当に良かったのだろうか」
リュドヴィックは苦しそうに眉根を寄せた。
「妹は国から迎えが来るまで、あまり喜んでいなかったんだ。ただ、困っているように笑っているだけで……。私はそれに気づいていながら、何も言わなかった。あの時は、妹にとって、それが良いと信じていたからな」
「モニカ」の記憶をまとめた「モニカ備忘録」の中にもあったが、「モニカ」は国から「花嫁」の迎えが来るまで、リュドヴィックに自分の想いを伝えるべきか悩んでいた。
「モニカ」が好きなのは、リュドヴィックであり、他国に嫁ぐのではなく、ずっとリュドヴィックの側に居たいと。
けれども、「モニカ」は自分の想いを告げることなく、国を出てしまった。
自分の想いや幸せよりも、兄が喜ぶ姿を選んだに違いない。
「私は間違ったことをしてしまったのではないだろうか。『モニカ』にとって間違ったことを……」
「それは……」
モニカはリュドヴィックをじっと見つめた。
「モニカ」から引き継いだ記憶ーー「モニカ備忘録」の中に答えはある。
後はそれをどう伝えるかが問題だった。
リュドヴィックを傷つけずーー「モニカ」も傷つけない伝え方。
リュドヴィックの期待する様な視線を感じつつ、しばし一考した後、口を開いたのだった。
「リュドヴィックさんは間違っていません。……『モニカ』さんも」
マキウスが話し終わった時、日はすっかり沈んで辺りは暗くなっていた。
話していたマキウスの代わりに、ヴィオーラが自身の魔力で点してくれた明かりに照らされたリュドヴィックは、不快感を表すように眉を顰めていたのだった。
「妹のモニカは死んで、ここにいるのは、モニカの姿形をした別人だというのか……」
「はい。黙っていてごめんなさい……」
モニカが二人に向かって頭を下げると、「いや」とリュドヴィックは首を振ったのだった。
「私の方こそ、取り乱してすまない。一番辛いのは、モニカたちだというのに……」
「そんなことな……。ありません」
モニカは首を振った。
リュドヴィックの妹の「モニカ」じゃないと知られた以上、彼を兄と呼ぶことは許されないだろう。
そう考えて、モニカは兄妹ではなく、妹を喪った騎士と妹の姿形をした他人として、話し出したのだった。
「辛いのは、おにい……。リュドヴィックさんです。大切な妹さんを失ったんです。幸せになって欲しくて、この国に『花嫁』として送り出したのに……」
リュドヴィックは妹の「モニカ」に幸せになって欲しくて、この国に妹を送り出した。
その為に、自分へ与えられるはずだった褒美を、自身ではなく「モニカ」に使ってまで。
「いや。私のことはいいんだ。それなら、貧民街でモニカに会った時に、違和感があったのも納得した。私のことを知らなかったんだな……」
「はい……。でも、『モニカ』さんの記憶が残っていたので、リュドヴィックさんのことは分かりました。さすがに、リュドヴィックさんとの思い出を全ては覚えていませんが……」
「モニカ……いや、モニカの中にいる貴女」
リュドヴィックの言葉に、モニカが顔を上げると、悲痛を含んだリュドヴィックの青い瞳と目が合う。
「一つだけ教えて欲しい。モニカは幸せだったのか……。妹は『花嫁』としてこの国に来て本当に良かったのだろうか」
リュドヴィックは苦しそうに眉根を寄せた。
「妹は国から迎えが来るまで、あまり喜んでいなかったんだ。ただ、困っているように笑っているだけで……。私はそれに気づいていながら、何も言わなかった。あの時は、妹にとって、それが良いと信じていたからな」
「モニカ」の記憶をまとめた「モニカ備忘録」の中にもあったが、「モニカ」は国から「花嫁」の迎えが来るまで、リュドヴィックに自分の想いを伝えるべきか悩んでいた。
「モニカ」が好きなのは、リュドヴィックであり、他国に嫁ぐのではなく、ずっとリュドヴィックの側に居たいと。
けれども、「モニカ」は自分の想いを告げることなく、国を出てしまった。
自分の想いや幸せよりも、兄が喜ぶ姿を選んだに違いない。
「私は間違ったことをしてしまったのではないだろうか。『モニカ』にとって間違ったことを……」
「それは……」
モニカはリュドヴィックをじっと見つめた。
「モニカ」から引き継いだ記憶ーー「モニカ備忘録」の中に答えはある。
後はそれをどう伝えるかが問題だった。
リュドヴィックを傷つけずーー「モニカ」も傷つけない伝え方。
リュドヴィックの期待する様な視線を感じつつ、しばし一考した後、口を開いたのだった。
「リュドヴィックさんは間違っていません。……『モニカ』さんも」