「それでは、貴女に失礼でしょう。貴女以外の女性も想うなどと……」
「それこそ、勝手に決めつけないで下さい。私はマキウス様が『モニカ』を想っていても怒りません! 自分の罪から目を逸らさずに、それと向き直って、『モニカ』を想い続ける……そんな真摯的なマキウス様が好きです!」

 モニカの言葉に、マキウスは顔を歪めて泣きそうになっていたが、決して泣くことは無く、ただモニカをじっと見つめていた。

「……こんな私で良いと、貴女は言うんですか? 私を許してくれると」
「許すも許さないも無いです。私は『モニカ』のことも大切に想っているマキウス様が良いんです」
「『モニカ』を想い続けることで、もしかしたら貴女を苦しませるかもしれません。それでもいいんですね?」
「いいんです。ここでマキウス様が『モニカ』を忘れると言ったら、私が『薄情者!』と言って、平手打ちをします」

 モニカが悪戯っぽく言っただろうか。マキウスは一瞬だけ目を見張った後に、モニカと同じように悪戯っぽく笑って返してきたのだった。

「今後、貴女と交わっている時も、『モニカ』を考えているかもしれませんよ?」
「そ、それは……。でも、マキウス様ならいいです……」
「モニカ。こういう時は、『交わっている時は、私だけを見てくれなきゃ嫌です!』と言って、嫉妬するところです」
「そ、そうなんですか……!?」
「冗談です」
「もう……」
「ですが、貴女を前にしている時は、貴女のことだけを想います。それは約束しますよ」

 ようやく、いつもの二人に戻ってきた。
 二人は安堵した様に顔を見合わせると、互いに笑みを浮かべたのだった。

「マキウス様こそ、私でいいんですか? 私は相応しくないかもしれませんよ?」
「私も貴女がいいんです。どんなに辛く苦しい状況でも、耐えてきた貴女が。……今まで、よく耐えてきました。でも、もう耐える必要はありません。これからはいついかなる時も、私が守ります。貴女はただ私の側に居てくれればいい」

 これまでの御國だった頃の凄惨な過去と傷を受け止めてもらい、苦労を労われて、モニカの目に涙が溢れてくる。
 けれども、なんとか言葉を振り絞ると、「守られるだけは嫌です」と返したのだった。

「私も、マキウス様の役に立ちたいです……。守られてばかりは嫌なんです……」
「そうでしたね。貴女はそういう方でした。だからこそ、私は貴女に心惹かれていったのでしょう」

 目尻から溢れた涙を、マキウスの指先が払ってくれる。
 もうマキウスの太くて温かい指先が怖いとは思わなかった。
 もっと触れて欲しいと、心だけでなく、身体中がマキウスを欲していた。

「これでもまだ相応しく無いと思うのなら、相応しいと思えるようになりましょう。お互いに」
「はい……」

 その時、モニカが星屑を散りばめた空を見上げると、一際大きな流星が流れて行った。

「マキウス様、見ましたか? 今、大きな星が流れて……」
「モニカ」

 モニカが呼ばれて振り向くと、目の前には幾千の星々にも引けを取らない、マキウスの端正な顔があった。
 目を見開いたまま、固まっていたモニカの唇に、マキウスは口づけてきたのだった。