「私は『モニカ』も好きですし、貴女のことも同じくらい好きです。どちらかを選ぶことはせず、どちらも平等に愛そうと思いました。無論、貴女になんと非難されようと。それなのに、今の私は『モニカ』よりも、貴女を愛している。失恋したと知ってからは、ますます……」

 以前、「モニカ」が本当に愛していたのはリュドヴィックだったと告げた時、マキウスは「『モニカ』に振られたと思っていいんですね」と悲しげな顔をしていた。
 あの表情は、大切に想っていた「モニカ」に対して、失恋したことによる失意の表情だったのだと、今更ながら気づく。

「『モニカ』をきっかけにますます溝が深まってしまった姉上との仲を和解させてくれて、私に新しい世界を教えてくれて、貧民街の活動を認めてくれた。……こんな私に好意を抱いてくれた。
 その想いに答えたいと思う反面、貴女を想う度に、私が傷つけて、苦しませてしまった『モニカ』を思い出してしまう。……最低な男です」
「最低なんかじゃないです。私に比べたら、マキウス様は最低じゃないです……!」

 もっと何か言わなければならないとモニカは思うが、悔しいことに何も言葉が出て来なかった。
 その間、マキウスは喉元を撫でながら険しい表情をした。

「目が覚めた貴女や、貴女が『モニカ』では無いことを私たちだけの秘密にしようとしたのも、私だけを頼って欲しかったからです。ニコラ共々も幸せにすると言って、貴女をここに残らせようとしたのも……。そう考えると、貴女とニコラを利用しようとしていたのは、私も同じです」
「そんなことは……」
「今度こそは同じ過ちは繰り返さないと約束します。貴女とニコラに相応しい男になります。ですが、無理に私を愛さなくていいです。『モニカ』と貴女のどちらも想う、こんな下郎も同然の私のことを……」

 妊娠を明かした際に「モニカ」に何もしていなかった罪滅ぼしと、マキウスが無知だったせいで危うく無事に産まれなかったかもしれないニコラの為にも。
 マキウスは夫として、父親として、相応しい人になろうと決意したのだろう。
 それは同時に、マキウスに罪の意識を持たせて、今日まで彼を苛ませていたことを意味していた。

「私も貴女たちに相応しくないかもしれない。けれども、勝手に決めつけないで下さい。貴女自身が相応しくないと決めつけたら、誰が相応しいと言うのですか?」
「それは……」
「自分の価値を決められるのは、自分だけです。……それを良くするのも、悪くするのも自分だけです」
「でも、そんなマキウス様も自分で自分の価値を決めているじゃないですか……。ずっと自分のことを罵って、『モニカ』に何もしなかった自分を責めてばかりで……私はマキウス様が相応しくないなんて、全然思っていないのに」
「ですが、私は貴女と『モニカ』のどちらも想っているんです。貴女以外の女性にも懸想をしています。罵倒されても仕方がないと……」
「それでいいじゃないですか! 『モニカ』のことも、私のことも、どっちも好きじゃ駄目なんですか? どちらか片方を選ばないと駄目なんですか!?」

 いつになく興奮して、叫ぶ様な形になってしまった。そんなモニカが意外だったのか、マキウスは瞬きを繰り返した後に、アメシストの様な目を伏せた。