「そうして、『モニカ』は無事に女児をーーニコラを産みました。今でも、もし姉上に何も話さず、何も用意をしていなかったらと思うと……自分の無知に怒りさえ覚えます」
その時を思い出したのだろうか。暗闇の中でも分かるくらいに、マキウスの顔は真っ青になっていたのだった。
「その時の名残もあって、ペルラとアマンテには屋敷に残ってもらっています。屋敷と育児について詳しいペルラをメイド長に、また乳が出ていたアマンテを乳母に命じました。それでも、『モニカ』は出産後、またニコラと二人きりで部屋に閉じこもるようになったので、実際に乳母であるアマンテが必要となったのはその後でしたが」
自重気味に笑うマキウスを見つめていると、不意にアメシストの様な瞳と目が合った。
「罪滅ぼしの意味もあって、ニコラが産まれてからは父親として、『モニカ』の夫として、男爵家の当主として、相応しい男にーー頼られる男になろうと決めました。
ですが、『モニカ』は部屋に閉じこもり、そして私たちは分かり合えないままーー『モニカ』を喪いました」
「モニカ」を喪った時を思い出したのが、マキウスは痛みを堪える様に顔を歪めた。
そんなマキウスに触れていいのか、モニカが手を伸ばしたところで、またマキウスは口を開いた。
「初めて『モニカ』と出会った時、私には『モニカ』が穢れを知らない無垢な天使の様に思えました。これまで女性といえば、気が強くて、我が儘で、人の話しを聞かなくて、振り回してばかりで、口うるさい存在だと思っていたので」
それって、まさかマキウスの姉や乳姉妹のことなんじゃ……と、モニカは思ったが、そんなモニカに気づく様子もなくマキウスは話を続ける。
「けれども、『モニカ』は私が知っていたどの女性とも違いました。たおやかで、静かに微笑んでいて、触れたら消えてしまいそうな存在でした。私はそんな『モニカ』に心惹かれて、彼女を好きになりました。
それなのに、私は彼女を守るどころか傷つけてしまいました。その罪滅ぼしの為にも、私は生涯『モニカ』を忘れてはならず、彼女が遺したニコラを立派な女性に育てようと決めました」
「そうだったんですね……」
初めて聞いたマキウスの「モニカ」に対する想いに圧倒されてしまう。
そんな「モニカ」に、また嫉妬の様な怒りが沸き上がってきたところで、「ですが」とマキウスは言いづらそうに口を開く。
「『モニカ』を喪って、誰にも悟られない様に悲しみに暮れていた私の元に、また天使がやって来ました。『モニカ』と同じ様に純粋無垢で、庇護欲さえ掻き立てられて、こんな罪深い私には勿体ない素敵な女性でした。そんな彼女に、私は日に日に心惹かれていきました」
「それって、誰のことですか……?」
恐る恐るモニカが尋ねると、傍らのマキウスは口角を緩めて、そうして蜂蜜の様な甘い声で答えてくれたのだった。
「貴女のことです。モニカ」
モニカは顔が火照っていくのを感じた。マキウスの言葉が嬉しいはずなのに、何故か呼吸が苦しくなる。
御國だった頃、元いた世界で読んだ恋愛小説や恋愛漫画の中にも、好きなヒーローやヒーローに甘く囁かれたヒロインが、こうやって息継ぎが出来なくなるシーンがあった。
この息が出来なくなる感覚が、恋をしているということなのだろうか。
中学生の頃の強姦未遂が原因で、初恋さえまだしていなかったモニカには初めての経験だった。
その時を思い出したのだろうか。暗闇の中でも分かるくらいに、マキウスの顔は真っ青になっていたのだった。
「その時の名残もあって、ペルラとアマンテには屋敷に残ってもらっています。屋敷と育児について詳しいペルラをメイド長に、また乳が出ていたアマンテを乳母に命じました。それでも、『モニカ』は出産後、またニコラと二人きりで部屋に閉じこもるようになったので、実際に乳母であるアマンテが必要となったのはその後でしたが」
自重気味に笑うマキウスを見つめていると、不意にアメシストの様な瞳と目が合った。
「罪滅ぼしの意味もあって、ニコラが産まれてからは父親として、『モニカ』の夫として、男爵家の当主として、相応しい男にーー頼られる男になろうと決めました。
ですが、『モニカ』は部屋に閉じこもり、そして私たちは分かり合えないままーー『モニカ』を喪いました」
「モニカ」を喪った時を思い出したのが、マキウスは痛みを堪える様に顔を歪めた。
そんなマキウスに触れていいのか、モニカが手を伸ばしたところで、またマキウスは口を開いた。
「初めて『モニカ』と出会った時、私には『モニカ』が穢れを知らない無垢な天使の様に思えました。これまで女性といえば、気が強くて、我が儘で、人の話しを聞かなくて、振り回してばかりで、口うるさい存在だと思っていたので」
それって、まさかマキウスの姉や乳姉妹のことなんじゃ……と、モニカは思ったが、そんなモニカに気づく様子もなくマキウスは話を続ける。
「けれども、『モニカ』は私が知っていたどの女性とも違いました。たおやかで、静かに微笑んでいて、触れたら消えてしまいそうな存在でした。私はそんな『モニカ』に心惹かれて、彼女を好きになりました。
それなのに、私は彼女を守るどころか傷つけてしまいました。その罪滅ぼしの為にも、私は生涯『モニカ』を忘れてはならず、彼女が遺したニコラを立派な女性に育てようと決めました」
「そうだったんですね……」
初めて聞いたマキウスの「モニカ」に対する想いに圧倒されてしまう。
そんな「モニカ」に、また嫉妬の様な怒りが沸き上がってきたところで、「ですが」とマキウスは言いづらそうに口を開く。
「『モニカ』を喪って、誰にも悟られない様に悲しみに暮れていた私の元に、また天使がやって来ました。『モニカ』と同じ様に純粋無垢で、庇護欲さえ掻き立てられて、こんな罪深い私には勿体ない素敵な女性でした。そんな彼女に、私は日に日に心惹かれていきました」
「それって、誰のことですか……?」
恐る恐るモニカが尋ねると、傍らのマキウスは口角を緩めて、そうして蜂蜜の様な甘い声で答えてくれたのだった。
「貴女のことです。モニカ」
モニカは顔が火照っていくのを感じた。マキウスの言葉が嬉しいはずなのに、何故か呼吸が苦しくなる。
御國だった頃、元いた世界で読んだ恋愛小説や恋愛漫画の中にも、好きなヒーローやヒーローに甘く囁かれたヒロインが、こうやって息継ぎが出来なくなるシーンがあった。
この息が出来なくなる感覚が、恋をしているということなのだろうか。
中学生の頃の強姦未遂が原因で、初恋さえまだしていなかったモニカには初めての経験だった。