「誰かが、貴女は私に相応しく無いと言った訳ではありません。それなのにどうして、貴女自身が私に相応しく無いと、勝手に決めつけてしまうのですか?」
「それは……」

 ここまで、マキウスが激昂したのは、モニカの夢の中以来だった。
 マキウスの怒声に驚いて、モニカが言葉に詰まっていると、怯えさせたと思われたのか、マキウスは膝を抱えていたモニカに腕を回すと、そっと抱きしめてきたのだった。

「すみません。怖がらせてしまいましたね」
「い、いえ。悪いのは私なので……」
「その、自分を責める癖はもう止めましょう。貴女は何も悪くないんです。
 貴女を傷つけたのも、貴女を悩ませ、苦しめたのも、全て貴方の周囲の人間です。
 貴方は悪くない。ならば、堂々としていればいい」
「それでも、私がマキウス様とニコラを利用したのは事実で……」
「あの状況では、私たちを利用するのが一番安全です。あのまま屋敷を出ていたら、貴女が何も知らないのをいいことに、貴女の凄惨な過去よりも酷いことをされて、辱めを受けていたことでしょう。貴女は何も間違っていない」
「気を遣わないで下さい。本当に私は酷い女で、マキウス様には相応しくありません。今になって、ここを追い出されても、文句は言いません」

 モニカの耳元に顔を寄せてきたマキウスは、そっと囁いてきた。

「私は貴女が相応しく無いなどと、思ったことはありません。むしろ、私の方が貴女とニコラに相応しく無いのではないかと、不安になるくらいに……」
「そんな……。マキウス様が相応しく無いと思ったことはありません!」

 モニカがマキウスの顔を見上げると、何故かマキウスは泣き笑いの様な表情を浮かべていた。
 
「私の方こそ、貴女とニコラに謝らなければなりません」
「マキウス様が、私に謝ることなんてあるんですか……?」

 きょとんとして見つめていると、マキウスは苦笑と共に小さく頷いた。

「ええ。ニコラの出産に関してです。元はと言えば、私が『モニカ』を犯してしまったのが全ての始まりです。前後不覚になっていたとはいえ、それが原因で『モニカ』は傷つき……喪う結果となりました」
「……何があったのか、聞いてもいいですか?」

 モニカの言葉にマキウスは頷くと、そっと口を開いたのだった。