「ここに来ていたある年の夏。私と姉上は、一緒に遊んでいたアマンテたちとはぐれて、森の中で迷子になってしまいました。
 ずっと泣いている私の手を、姉上が叱咤しながら引いてくれて、私たちは森の中を歩いていきました」
「泣いているマキウス様と、そんなマキウス様を励ますお姉様の姿が想像出来ます」
「最終的には、姉上も私に釣られて泣いていました。……それでも、私の手を離すことは決して無かった」

 泣きべそを掻く幼少期のマキウスと、そんなマキウスを「しっかりしなさい!」と叱咤しつつ、自分も辛いのをグッと堪える幼少期のヴィオーラの姿が想像出来て、モニカは微笑ましい気持ちになる。

「やがて、私たちは森を抜けて、丘の上に出ました。森で迷子になった私たちでしたが、いつの間にか森を抜けて、丘の頂上に出ていたんです」

 そうして迷子になった幼き頃の姉弟が辿り着いた丘の頂上は、見晴らしの良い開けた場所となっていた。
 周りに木々はなく、草原の様に草花に覆われて、どこよりも空を見渡せる様な場所になっていたのだった。

「森で迷子になった日も、流星群の日でした。私たちは迷子になったのも忘れて、すっかり星々に魅入ってしまいました」
 
 その日は、たまたま流星群がピークの日であった。
 絶え間なく丸い空を流れる流星群だけでなく、丘に咲いていた夜咲きの花までもが、星々に釣られて輝いている様に見えた。
 そんな幻想的な光景を前に泣いていたマキウスも、マキウスに釣られて泣いていたヴィオーラも、時間も、迷子になったのも忘れて、二人はペルラが探しに来るまで、ずっと見惚れていたのだった。
 
「それから、ペルラに丘の頂上への行き方を聞いた私たちは、毎年、流星群の日はここにやって来ました」

 姉弟はたまたまこの場所にやってきたが、屋敷からこの場所まで、舗装されてはいないが一応、道があった。
 それが今、モニカたちが登っている道だった。

「ペルラによると、元々、私たち姉弟や父上のずっと前の代のブーゲンビリア侯爵は、今私たちが向かっている丘の頂上に、別荘となる屋敷を建てるつもりで、この地を買い取ったそうです。
 けれども、毎年、丘の頂上までやって来るのに丘を登る必要があったのと、また屋敷を建てるのに森の木々を伐採する必要があったことから、周囲の反対にあったそうです。
 それで、結局、丘の頂上に屋敷は建てず、何もない開けた場所だけが残ったそうです」

 丘の頂上に屋敷を建てることを反対された当時のブーゲンビリア侯爵は、その後、丘の麓に小さな屋敷を建てた。
 それが、マキウスたちが夏場に来ていたという屋敷だったらしい。

「ですが、その屋敷も、老朽化が激しく、もう使用する者がいないからと、何年か前に、亡くなった父上の跡を継いで、ブーゲンビリア侯爵となった姉上の母上ーー先のブーゲンビリア侯爵夫人の命令で、取り壊してしまったそうです」
「そうだったんですね……。うわぁ!」

 モニカが地面の窪みに足を取られて転びかけると、すかさずマキウスが腕を引いて、助け起こしてくれた。

「気をつけて下さい。この辺りは暗いので、視界が悪いんです。私たちは夜目が効きますが、貴女たちはそうではないでしょう」
「そうですね……。すみません。ありがとうございました」

 身体能力が高いマキウスたちは夜目が効くらしいが、モニカにはほとんど何も見えなかった。
 ただ薄っすらと木々の形が見えるだけで。
 モニカはマキウスに引っ張られるようにして、丘を登ったのだった。
 
「着きました。ここです」
「ここですか……わぁ!」