そして、流星群の日の夜。
 屋敷で夕食を済ませたモニカとマキウスは、アマンテにニコラを預けると、馬車に揺られて、鬱蒼とした木々に囲まれた小高い丘にやってきたのだった。

「マキウス様、ここは……?」
「私たちのお気に入りの場所です」

 厳密に言えば、ここはブーゲンビリア家が所有する土地の一つであり、今は木々が生い茂っているだけのただの小高い丘になっているらしい。
 モニカは魔力で灯した明かりを持ったマキウスの手を借りつつ、舗装されていない、剥き出しの土の道を歩いて、丘を登っていた。

「私が子供の頃、この近くにはブーゲンビリア侯爵家が所有する小さな屋敷が建っていました。夏にはペルラたちに連れられて、姉上と一緒に避暑に来ていました」
「この世界にも夏があるんですね」
「この国の季節も天気と同じで、地上に住んでいた頃を忘れない様に、夏や冬があります。夏は日照りが続いて暑く、冬は雪が降って寒く、それ以外の季節はその中間の気候といえばいいのでしょうか」
「私の世界と同じなんですね……」
「貴女の世界にも夏や冬があるんですね」

 マキウスは感心した様な顔をしつつも、丘を登る足を止めることなく教えてくれたのだった。

「毎年、夏の時期になると、私と姉上の母上は体調を崩して寝込んでいました。夏にも流星群の日がありますが、基本的に流星群の前後は父上も騎士団の仕事で忙しく、夜遅くに帰宅していました。
 ですが、私や姉上、アマンテやアガタといった子供たちは体力を持て余しており、屋敷で騒がしくしていました。そこで、母上たちの療養の妨げになるからと、夏の間はペルラたちに連れられて、この地に連れてこられたんです」
 
 マキウスがまだブーゲンビリア侯爵家にいた頃。
 夏の間も、姉弟の父親である侯爵は騎士団に所属していたので、季節に関係なく、なかなか休みが取れなかったらしい。
 また、マキウスの母親は身体が弱いので屋敷から出られず、ヴィオーラの母親も夏場は体調を崩し気味で、屋敷から出られなかった。
 けれども、子供たちは元気を持て余していたので、夏場も関係なく屋敷の内外で遊び回っていたらしい。
 そんな子供たちが母親たちの療養の邪魔にならないように、夏場は姉弟の乳母であるペルラと、ペルラの夫のセルボーンに連れられて、この屋敷に来ていたとのことだった。
 
「この辺りは昔から自然に溢れており、私たちは毎日この森で遊んでいました。……最も、私は虫と日焼けが嫌いだったので、屋敷で本を読んでいたかったのですが、姉上が連れ回すので仕方なく」
「……女の子みたいだったんですね。マキウス様」

 モニカの呟きに言葉が詰まったマキウスだったが、すぐに返してきたのだった。

「……子供の頃は、日焼けすると肌が赤く腫れるから嫌だったんです」

 やはり恥ずかしかったのだろうか。
 いつもより早口で話したマキウスに、モニカが小さく笑っていると、マキウスはすぐに話しを続けたのだった。