それからしばらく、モニカが図鑑を読んでいると、また扉が開いた。

「モニカ？ まだ起きていたのですか？」

　部屋に入って来たのはマキウスだった。

「あれから随分と時間が経ったので、もう寝たのかと思っていましたよ」
「もう、そんな時間なんですか？」

　本から顔を上げたモニカは、ソファーから立ち上がって窓から外を見た。
　既に夜更けだからか、外は人工的な灯りだけを残して真っ暗であった。
　
「うわぁ、本当だ！ もう、こんなに時間が経っていたんですね！」
「時間を忘れる程に、夢中になっていたんですね」

　モニカの隣にやってくると、マキウスは少しだけ窓を開けた。
　夜風に吹かれて、マキウスからは花のような香りがしてきたのだった。

「早くこの世界について知りたくて、夢中になっていたら……。つい」
「そうでしたか。努力家なのは感心ですが、あまり根を詰めるのもよくありません。休める時に休んで下さい」
「はい……」
　
　マキウスが窓を閉めようとすると、一筋の光が外を流れた。
　モニカが窓に顔を近づけると、また暗い空を星が流れて行ったのだった。

「あれは、流れ星？」

　モニカの言葉に、マキウスが「そういえば」と何かを思い出したようだった。

「今夜から流星群の日でしたね」
「流星群の日？」
　
　マキウスによると、この世界でも度々、幾千もの星が流れていく流星群の日があるらしい。
　その日の前後三日間程は、夜になると幾つかの星々が空を流れる。

　この国の天候は、人の手に寄って管理されており、天候も管理する者たちによって決まっている。
　どの日がどの天候になるのかは、これまでの天候の回数から調整して天候を決めているが、ただし、流星群の日だけは、毎年、日にちが固定されているらしく、その日は確実に晴れるらしい。
　
「流星群の日は、男女の逢引が増えるので、何かと問題が起こりがちなんです……。騎士団も出動せねばならぬ程に」
「この世界でもそうなんですね……。ロマンティックな夜は、トラブル沙汰が増えるんですね」

　モニカがまだ御國だった頃、流星群の日に限らず、クリスマスやバレンタインなどの男女がデートをする様な日は、何かとトラブルや事件が起こっていた。
　モニカは巻き込まれたことはないが、よくテレビでそういったトラブルや事件の話を聞いたものだった。

「特にこの国に古くから存在する伝説の一つに、『流星群の日に結ばれた二人は、幸せになる』という話があります。
　それもあって、流星群の日が近づくと、騎士団は夜間の巡回を強化しなければならない程何かと起きがちなんです」
「ロマンティックな伝説ですね！ でもそれじゃあ、マキウス様も忙しいですよね……」

　マキウスと一緒に流星群が見れると、喜んでいたモニカだったが、マキウスの言葉に心が沈んでいき、肩を落としたのだった。

「一緒に流星群を見たかったです……」
「それが……」

　マキウスは咳払いをすると、どこか言いづらそうに続けた。

「今回、流星群の日は、仕事が休みなんです」
「そうなんですか！」

　モニカが目を輝かせると、マキウスは頷いたのだった。

「その日の夜、一緒に出掛けませんか？」
「はい！」