「この国に来て、マキウス様と出会って、少しずつ自分の気持ちが整理出来てきた。そんな時でした。『モニカ』の身体に変化が起こって、それに『モニカ』が気づいてしまったんです」
「身体の変化ですか……」

 モニカが腕の中のニコラに目線を落としたことで、マキウスもモニカが示す「身体の変化」が何か気づいたのだろう。
 気まずいような顔をしたのだった。

「ニコラを妊娠したことで、急激に変わる身体の変化に心がついていけなかったんです。私がいた世界でも聞いたことがあります」

 妊娠をすると、ホルモンバランスの変化によって、情緒が不安定になるというのは聞いたことがあった。更には、身体の不調も加わって、何も出来ない自身を責めてしまい鬱病になってしまうことも。

「特に『モニカ』は、何の準備も、心構えも出来ていないまま、妊娠して、やがて母親になりました。私には想像も出来ないくらい、戸惑ったことだと思います」
「そうですか。やはり、私のせいで……」
「マキウス様が悪い訳ではありません。『モニカ』にも非があります。妊娠が発覚して、部屋で泣き叫び、暴れている間にも、『モニカ』には用意が出来たはずなんです。
 母親になる覚悟も、そうじゃない覚悟も」

「モニカ」に対して、否定的な意見を言ったからだろうか。項垂れていたマキウスが、意外だというように顔を上げたのだった。

「珍しいですね。貴女が『モニカ』に対して、辛辣な意見を言うなんて」
「何の準備も心構えもなく母親になったのは、私も同じなんです。さすがに、妊娠と出産の苦しい経験はしていないので、そこは同情しますが」

 これも「モニカ」が自分の一部になったから言えるのだろうか。
 モニカも階段から落ちて、目覚めたと思ったら、この世界で一児の母親となっていた。
 そこだけ見れば、モニカも、「モニカ」と何も変わらないだろう。

 その時、部屋にアマンテがやって来たので、モニカは腕の中で寝息を立てるニコラを預けると、静かに退室したのだった。