「モニカ」が階段から落ちなければマキウスと出会わなかったが、それは「モニカ」が階段から落ちたことを喜ぶような意味にもなりかねない。
 マキウスは「モニカ」を想っていたのに。

(やっぱり、妬いているのかな……)

 以前にも、似たようなことがあった。
 マキウスが「モニカ」を想って話している時に、「モニカ」に嫉妬しているようなことを言ってしまった。
 もしかしたら、モニカはマキウスが未だに「モニカ」をーー自分以外の女性を想っていることに嫉妬しているのかもしれない。
 自分もマキウスのことが好きだから。
 だからこそ、「モニカ」に関するこの話をするのは卑怯だろうかーー。

「あの、マキウス様。ずっと言おうか迷っていたことがあるんですが……」
「何でしょうか?」
「『モニカ』はマキウス様との結婚が嫌ではなかったんです。ただ、好きな人がいて、その人を諦めきれなかっただけなんです」
「それは……誰ですか!?」

 マキウスが声を荒げたからだろうか。マキウスの腕の中で寝ていたニコラが顔を歪めて、不快感を表したのだった。
 マキウスからニコラを預かり、モニカが腕の中であやしていると、またニコラは穏やかな寝息を立て始めたのだった。

「『モニカ』から受け継いだ記憶を見ていて、気づいたんです。『モニカ』にはずっと好きな人がいたんです。ただ、その人とは結ばれなかった。その人は『モニカ』のことを、ずっと妹のようにしか思っていなかったから」
「もしかして、『モニカ』が好意を寄せていた相手というのは、リュド殿のことですか?」

 マキウスの言葉に、モニカはそっと頷いた。

「『モニカ』はずっとお兄ちゃんが好きだったんです。兄としてではなく、一人の異性として。
 けれども、お兄ちゃんは『モニカ』を妹としか思っていなかった。その想いが通じないまま、『モニカ』は『花嫁』として、この国に来ました。……『妹』の幸せを願ったお兄ちゃんの望み通りに」

「モニカ備忘録」の中で、思い出したくないというように封印されていたリュドヴィックとの記憶。
 あれは、リュドヴィックを思い出せば、自然とリュドヴィックに抱いていた想いまで蘇ってくるから。

「『モニカ』が『花嫁』に選ばれた時、お兄ちゃん、とても喜んでいたんです。『花嫁』に選ばれるって、栄誉あることなんですよね? そんな『花嫁』に妹が選ばれて、『モニカ』が幸せになれるって、もっと楽な暮らしが出来るって、お兄ちゃん、喜んでいたんです。
 それでますます自分の気持ちを言えなくなったみたいで……お兄ちゃんに対する自分の気持ちを封印したみたいです」

「モニカ備忘録」を見ていて気付いたこと、それは「花嫁」に選ばれるまでは、リュドヴィックと過ごす時間を「モニカ」がとても大切にしていたが、「花嫁」に選ばれてからは、とても苦しそうだったこと。
 それは、きっと自分の気持ちを、なかなか諦めきれなかったから。
 喜ぶリュドヴィックを前に、 自分の気持ちを正直に言い出せなかったからーー。